「大和くん。……すごーく溢れてるけど」
「え゛っ!?あっ」
大きめのマグカップに差し込まれたドリップパックから溢れる茶色の液体が、作業台に水溜りを作ってぽたぽたと床に滴り落ち始めている。
焦った大和がドリップポットをコンロに置いて、台拭きでコーヒーが流れ落ちていくのを堰き止める。
「も〜。雑巾雑巾……」
私も戸棚から雑巾を取り出して、床にこぼれた液体を拭いた。
「……」
雑に作業台の拭き取りをした大和が、チラリと美玲の様子を窺う。
「大丈夫?私も……」
「……や!大したことないから、平気!」
心配そうに立ち上がりかけた美玲を制止して、素早く私の隣にしゃがみ込んだ。
隣で大和が屈んで起こした風に、きょとんとしてそっちを見る。
気まずそうな顔をした大和が、口の動きだけで話しかけてきた。
“何かあった?”
……あった、と、言えばあった。
けど、私が美玲に対して勝手に私情を持ってるだけだし。
美玲サイドに何かあった、というわけでもない。
(あるとして、私が紫苑と花火のペアだったから……とか?)
今まで美玲からは、紫苑に対する本物の情みたいなものをあんまり感じたことはない。
けど、今といい、この間の向日葵迷路の時といい、最近の彼女は急に私に嫉妬のような強い感情を向けてくるようになった。
(ずっと“紫苑に恋する美玲”を演じ続けて、役に入り込めるようになった?
それとも、本当に恋をした?)



