台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―


感情的にぶつけた言葉に、香月瑠奈の表情が初めて消える。

それと同時に作り物みたいな不自然さも一瞬で消え失せて、仄かに赤い唇がうっすらと開いていた。

香月瑠奈の丸い瞳が、その大きさを保つようにひくひくと揺れている。

長い間の後、スローモーションのように小さくはっきりとその口が動いた。


「………誰よりも理解してるっつーの」


――誰が発した言葉なのか、理解するまでに数秒かかった。

面食らっている間に、目の前にいる奴の丸い瞳が月蝕のように細くなってキツくなる。

剥き出しになった生々しい感情に煽られて、心臓が不整脈を打った。


「番組にも周りにも推されてるアンタに、私の事情は一生わかんないでしょうね!」


言うが早いか、香月瑠奈が力一杯俺の肩を押してくる。

状況を理解する前に、長い黒髪が残像を残して走り去る。


――俺は今、何を目撃してしまったのか。


状況を飲み込めない頭が、時間をかけてゆっくりと動き出す。

“俺が彼女の何かを踏みつけたせいで怒らせた”と理解る頃には、香月瑠奈の足音すらもう残っていない。


冷静になれば、今の自分はイライラしてた自覚はあるし。
自分の置かれた状況なんて、香月瑠奈には関係のないことだったし。


(……これ、やらかしたな……)


明日から、本格的に撮影が始まるって言うのに。

無難にやり過ごすはずが初日から、でかい爆弾を抱えてしまった。