後一段降りれば、リビングに辿り着く。
爽真はもういるのだろうか?
そんなことを思っていると、向かい側の男子フロアの階段を降りてくる人影を見た。
ぼうっと、夜に紛れる黒髪と黒い部屋着。
そのくせ肌は白いから、その輪郭はちゃんとわかる。
私がリビングのフローリングを踏むのと同時、向かい側にいる人もそこに降り立つ。
薄闇に捉える、夜色の目をした涼やかな顔。
――爽真だ。
思わずキュッと喉が鳴って、キュンとしまる胸が全身に緊張を伝える。
(普通の私を演じればいいだけ。私ならやれる。
……よし)
「……よう」
ちょっと斜に構えて、ろくに唇も動かさずにそう言った。
「……ん」
爽真も無表情のまま、短く挨拶を返してくる。
その目にだけは、なんとなく温度があるように見えた。
「……座る?」
「……ん、」
ソファを指差すと、爽真は小さく頷く。
それで一緒にソファの正面に回り込んで、お互いになんとなく定位置の前で立ち止まった。
「……」
「……」
お互いに顔を見合わせないまま、同時にストンとそこに座る。
体の横に置いた手と手が、ぎりぎり触れ合わない微妙な距離を保っていた。



