家のドアを閉めた瞬間だった。
張り詰めていたものが、音を立てて崩れた気がした。
鞄が床に落ちる。
それすらどうでもよかった。
そのまま壁にもたれかかるようにしゃがみ込む。
……無理だ。
息ができない。
胸が痛い。
痛すぎて、笑えてくるくらい。
でも笑えなかった。
「っ……なんで……」
喉が勝手に震える。
「なんで、私も好きだったのに……」
言葉にした瞬間、涙が一気に溢れた。
止まらない。
ぽろぽろ、なんて可愛いものじゃなかった。
ぼたぼたと、落ちるみたいに涙がこぼれていく。
視界が崩れていく。
息を吸おうとするたびに喉が詰まる。
「ぜったい……私のほうが好きだったのに……っ」
声が裏返る。
なんでこんなこと言ってるんだろう。
好きの大きさなんて比べられないのに。
わかってるのに。
それでも、悔しくて仕方なかった。
「どうして……遼くんなの……」
涙でぐちゃぐちゃのまま、床に額を押しつける。
頭の中が勝手に埋まっていく。
遼くんの声。
遼くんの笑い方。
くだらないことで笑っていた顔。
「鈴夏、それおもしろい」
そう言って笑った顔。
「え、まじ?」
って、少し首をかしげた顔。
全部、全部、勝手に浮かんでくる。
やめて。
やめてよ。
もう見たくないのに。
思い出したくないのに。
なのに、次から次へと遼くんが出てくる。
笑ってる遼くん。
話しかけてくる遼くん。
私を見て笑った遼くん。
全部、全部、優しい顔ばっかりで。
それが余計に苦しい。
「なんで……っ」
喉が詰まる。
息が吸えない。
「なんで、純恋ちゃんと仲良くしちゃったのかなあ……」
声が震える。
床に涙が落ちて滲んでいく。
違う。
そんなこと言いたいんじゃない。
ほんとは。
ほんとは――
「私じゃ……だめなのかな……」
ぽろりと、本音が零れた。
その瞬間、胸がさらに締め付けられる。
言ってしまった。
言っちゃいけないことだったのに。
「最低だ……」
嗚咽が混ざる。
声にならない。
「こんなこと考えるなんて……っ」
涙が止まらない。
視界がぐしゃぐしゃに歪む。
「だから……」
しゃくり上げながら、やっとの思いで言葉をつなぐ。
「だから、遼くんは……純恋ちゃんを選んだんだろうな……」
違う。
そんなはずない。
わかってるのに。
それでももう、考える余裕なんてなかった。
ただ苦しくて。
ただ悔しくて。
ただ、どうしようもなくて。
「ばいばい……」
掠れた声が床に落ちる。
「私の初恋……」
その瞬間、遼くんの大人っぽい笑みが浮かんで。
それが最後の一撃みたいに胸を刺した。

