元カレは、今も私をミケと呼ぶ


「何で、この駅にいるの?」

私の手元にあった彼の視線が、すぐに戻ってきた。

「取引先の人とご飯食べてて」

「へぇ……」

少し間が空く。

「それってさ。……男?」

声のトーンが、少し落ちたように聞こえた。

「え?」

答えに迷う。

(営業の男性、だけど……)

仕事で同行して、契約がうまくいかなくて。
食事しながら反省会をしただけだ。

陽太がスマホを取り出して、画面を見つめる。

何かを確認するように指を動かすと、すぐにポケットにしまった。

『どうしたの?』と聞きたくなったのを飲み込む。

「……で、陽太は?」

「これから泊まりなんだ」

分かりやすく胸が重くなる。

どこを見ていいか分からなくて、視線を落とした。

これも聞くべきではない――

そう、分かっているのに。

「それは……女の人……?」

思わず、ぽろりと口にしてしまう。

恐る恐る見上げてみると、
陽太は目を丸くして、すぐに笑いながら手を振った。

「違うよ、友だち。
大学のときの、ほら、ヤマトん家だよ!」

「ああ」

今も変わらないんだと、懐かしい名前にほっとする。

口元が緩んでしまったのを気付かれたくなくて、
慌ててそっぽを向いた。

(私、全然変わってない)

彼は、昔と同じようにすぐ答えてくれるのに。

私は、いつだって回りくどい。

左手を隠していた腕をおろした。
そして、真っ直ぐに彼を見上げた。

「私の方は、男の人。
でもね、ただの取引先だよ」

陽太の瞳が、かすかに揺れた。

しばらくの間、視線が重なる。

「そっか!」

そう言って、いつもの笑顔に戻った。