✴✴✴
「やっぱりミケだ! 久しぶり!」
大学時代に付き合って、卒業前に別れた――陽太。
本当の名前は実花なんだけど。
彼だけが“ミケ”と呼ぶ。
気まぐれでフラッといなくなる、実家の猫そっくりだからだって。
当時の私は、そのあだ名をなんだかんだ気に入っていた。
陽太が人懐っこそうな瞳で私を見つめている。
よく日に焼けた肌も、クセのある柔らかい茶色の髪も。
……あの頃のまま。
違うのは、やたら明るい色のスウェットから、
スーツ姿になったことくらい。
首元から下がっているのがパーカーの紐じゃなくて、
ネクタイに変わったのに。
そこから上――
満面の笑みが、当時と重なって。
軽く吹き出してしまった。
人の流れに押されそうになると、
陽太が手を伸ばして、離れた場所へと誘導してくれる。
触れそうなのに、触れなくて。
遠慮しているのが分かって、もどかしさが胸に落ちていく。
さりげなく、彼の左手の薬指に視線がいく。
(……何もついてない)
無意識の確認に、自分でも驚く。
彼の腕が離れる。
触れていないのに、背中にぬくもりが残っている気がした。
「……ありがとう」
小さくお礼を言う。
チラリと見ると、陽太は微笑んでいた。
「陽太とここで会うなんて驚いた」
「俺もだよ。すごくビックリした!
ミケ……なんか、変わったね」
まじまじと見つめられる。
「大人っぽくなった」
陽太が目を細めて頷いた。
その言葉が、冷たい痛みとなって胸を突く。
――二年前。
私は彼に『物足りない』と言って別れを告げた。
ただ隣にいて、手を繋いで笑い合うだけで満足だという彼を、
子供っぽく感じてしまったのだ。
もっと強く抱きしめてほしい。
肌を重ねて、形のある繋がりで安心させてほしい。
そんな私の渇望を、彼は『大切にしたいから』と優しく受け流した。
陽太と別れた後。
求めれば、抱きしめてくれる人はいた。
指を絡めて、名前を甘く囁いてくれる人も。
望んでいたはずの形は簡単に手に入った。
けれど、心は少しも満たされなかった。
指先が冷えていることに気付く。
傘の先から水滴がポタポタと落ちて、私の足元に広がっていた。
(……寒い)
ふと、我に返って陽太を見た。
私の視線に気づいて、
少し照れたように笑う彼に、胸の奥がズキリと痛む。
私はそっと、傘を持った手で自分の左手を隠した。
結婚もしていないし、恋人もいないのに。
(……変なの……)
何でこんなことをするのか。
自分でも理由は分からないけれど。
私の不自然な動きに、陽太は何も思わなかったらしい。
その反応に少し胸が苦しくなる。
「やっぱりミケだ! 久しぶり!」
大学時代に付き合って、卒業前に別れた――陽太。
本当の名前は実花なんだけど。
彼だけが“ミケ”と呼ぶ。
気まぐれでフラッといなくなる、実家の猫そっくりだからだって。
当時の私は、そのあだ名をなんだかんだ気に入っていた。
陽太が人懐っこそうな瞳で私を見つめている。
よく日に焼けた肌も、クセのある柔らかい茶色の髪も。
……あの頃のまま。
違うのは、やたら明るい色のスウェットから、
スーツ姿になったことくらい。
首元から下がっているのがパーカーの紐じゃなくて、
ネクタイに変わったのに。
そこから上――
満面の笑みが、当時と重なって。
軽く吹き出してしまった。
人の流れに押されそうになると、
陽太が手を伸ばして、離れた場所へと誘導してくれる。
触れそうなのに、触れなくて。
遠慮しているのが分かって、もどかしさが胸に落ちていく。
さりげなく、彼の左手の薬指に視線がいく。
(……何もついてない)
無意識の確認に、自分でも驚く。
彼の腕が離れる。
触れていないのに、背中にぬくもりが残っている気がした。
「……ありがとう」
小さくお礼を言う。
チラリと見ると、陽太は微笑んでいた。
「陽太とここで会うなんて驚いた」
「俺もだよ。すごくビックリした!
ミケ……なんか、変わったね」
まじまじと見つめられる。
「大人っぽくなった」
陽太が目を細めて頷いた。
その言葉が、冷たい痛みとなって胸を突く。
――二年前。
私は彼に『物足りない』と言って別れを告げた。
ただ隣にいて、手を繋いで笑い合うだけで満足だという彼を、
子供っぽく感じてしまったのだ。
もっと強く抱きしめてほしい。
肌を重ねて、形のある繋がりで安心させてほしい。
そんな私の渇望を、彼は『大切にしたいから』と優しく受け流した。
陽太と別れた後。
求めれば、抱きしめてくれる人はいた。
指を絡めて、名前を甘く囁いてくれる人も。
望んでいたはずの形は簡単に手に入った。
けれど、心は少しも満たされなかった。
指先が冷えていることに気付く。
傘の先から水滴がポタポタと落ちて、私の足元に広がっていた。
(……寒い)
ふと、我に返って陽太を見た。
私の視線に気づいて、
少し照れたように笑う彼に、胸の奥がズキリと痛む。
私はそっと、傘を持った手で自分の左手を隠した。
結婚もしていないし、恋人もいないのに。
(……変なの……)
何でこんなことをするのか。
自分でも理由は分からないけれど。
私の不自然な動きに、陽太は何も思わなかったらしい。
その反応に少し胸が苦しくなる。



