元カレは、今も私をミケと呼ぶ

《ドアが閉まります。ご注意ください》

(待って!)

あと数メートルというところで、無情にもドアが閉まった。

(あ~あ……)

電車はそのまま走り出す。

恨めしく見送ると、濡れた傘をたたみ、ため息をつく。

(さっさと払えばよかった……)

取引先との食事で、どちらがご馳走するか。
もたついたのを悔やむ。

「はぁ……」

もう一度、小さくため息をつく。

湿った風が顔にまとわりついて不快だ。

なんだか、今日はツイてない。

改札へ向かう人の波を避けようと、端へ寄ろうとした。

――その時。

「……ミケ?」

懐かしい呼び名。

胸が締め付けられるほど、覚えている低い声。

顔を上げて振り向くと――

「え、陽太(ようた)……?」

元カレが、いた。