高校の最寄駅から、東に向かって3駅分だけ進んだところで下車すると、閑静な住宅街が広がっていた。

 少し前まで雨が降っていたのだろう。アスファルトの地面はやや濡れていた。湿った地面とは対照的に、空気はからりと渇いている。9月の空は気まぐれだった。傘を持たない迂闊なあたしは晴れ晴れとした空に感謝しながらローファーを鳴らす。

 佳乃くんから送ってもらった位置情報を頼りに道を進んでいくと、水路沿いに小綺麗な一軒家が現れた。うすいベージュの外壁が景色によく馴染んでいる。〈町田〉の表札で、それが佳乃くんの家だとすぐに理解できた。駐車場に車はない。

 迷わずインターホンを押す。

 数秒待って玄関先に出てきたのは、約束をしていた兄の方ではなく、昼休みに会ったばかりの弟の方だった。

 乃亜くんはあたしの顔を見るや否や、げ、と言いたそうな顔をする。



「会うって、家だったのかよ」

「あれ、言わなかったっけ?」

「聞いてない」



 乃亜くんは眉間にしわを寄せながら、玄関の扉を閉めようとする。あたしは扉のすき間に右脚を捩じ込ませ、乃亜くんに締め出されそうになるのを阻止してやった。



「佳乃くん、いる?」

「……部屋にいる」

「案内して?」



 乃亜くんは存外、諦めがいいタイプみたいだ。今度は扉を雑に開けて、あたしを中に入れてくれる。どうせこうなるのなら、最初から素直に上げてくれればいいのに。このひとはどうやら、あたしのことが嫌いらしい。

 彼はそのまま黙って玄関脇にある階段を上っていく。ついてこい、ということだろう。

 階段を上って2階の廊下を進むと、奥に部屋がふたつ並んでいた。手前側が佳乃くんの部屋で、奥が乃亜くんの部屋のようだった。

 乃亜くんは佳乃くんの部屋の扉を指差して、「ここ」と言ったきり、隣の部屋に引っ込んでしまった。必要最低限の会話に留めたいのだろう。



「かーのくん。入ってもいい?」



 ノックをしながら声をかける。中からの返事はなかったけれど、元々約束していたのだから、ダメと言われることもないはずだ。躊躇なく、そのまま扉を開ける。

 部屋の中は物であふれていた。ローテーブルの上にはノートパソコンと、表紙にでかでかとSPIとか面接対策とか書かれている本、それからルーズリーフや筆記用具が散らばっていた。煙草の空き箱とライターなんかも、もちろんそこにある。床には絡まった有線のイヤホンが落ちているほか、埃を被った漫画や雑紙、一昔前のCDも積み上げられていた。

 一言でいえば、だらしない男の部屋だった。だけど、不快感はない。不快感がないのは相手が佳乃くんだからだ。好きな男には甘くなってしまう。

 当の本人である佳乃くんはベッドの上でスマホをいじっていた。彼はあたしの顔を視認すると、眠たそうに目を擦りながらのそりと起き上がる。