素肌の上にバスローブを羽織り、ベッドを降りて、佳乃くんの隣に腰掛ける。黒い革のソファーが体重とともに沈んだ。



「女子高生が年齢偽ってマッチングアプリやるのって、そんなにいけないこと?」

「宵にとっては不埒な冒険でもね、おれは犯罪者になっちゃうわけよ。未成年に酒飲ませて、ホテル連れ込んで、未成年淫行って、ヤバいから」

「でもさ、うちの高校にも、大学生と付き合ってる子、ふつうにいるよ? みんな未成年インコーしてるじゃん」

「どちらかと言うとね、未成年に酒飲ませちゃった方がヤバいのよ。理解できます?」



 あたしがあたしの意思でお酒を飲んだだけなのに、それってそこまで気にしなきゃいけないことなの? 大人にとっては大事なことなのかしら。



「別に、隠せば良くない? あたしが誰にも言わなければ、それで済む話じゃん」

「信用できねー。通報されたら終わりじゃん」

「じゃあ、コレ持ってていいから、信用して?」



 ローテーブルの上に置いていた鞄に手を伸ばす。

 その中から学生手帳を取り出して、佳乃くんに手渡した。



「何これ」

「学生手帳。佳乃くんがあたしのこと信用できるまで、持ってていいよ?」

「いいの? おれにこんなの渡したら、悪用するけど」

「どう悪用するの?」

「ヤリたいときに呼び出しちゃうかも」

「なにそれ、最高じゃん」

「変態女。おまえ頭おかしいよ」



 佳乃くんは煙草を持っていない方の手で、学生手帳の一番後ろのページを開く。顔写真付きの学生証には、高校名も、クラスも、名前も、住所も、ぜんぶ書いてある。



「1年A組、夢見、宵。か」



 あたしの名前を呟くと、彼は学生手帳を閉じた。



「これで、JKとの犯罪セックスがフリーパスになるってことね」

「ワードチョイスきもー」

「大学生の男に股開くおまえも大概だよ」

「佳乃くんだって興奮してたくせに」

「可愛い女に興奮するのはふつうのことでしょ」



 馬鹿な女だと、思われているのかもしれない。

 それでも。どんな形であっても、あたしは自分が行きたい場所に行き、やりたいことをして、会いたい人に会う。

 あたしは、息をするようにぺらぺらと甘い言葉を吐く彼を、それなりに気に入ってしまった。だからあたしは学生手帳を渡した。彼があたしの学生証を持っている限り、彼との関係は続いていくだろう。あたしはそれを期待していた。

 堕落するのも悪くない。



「可愛いって思ってくれてんだ?」

「まあ、それはほんとのことだし」



 煙草の灰をつぶした彼が、煙たい匂いを纏わせながらあたしの後頭部に手を回した。そのままなだれ込むようにキスをされる。

 そのくちびると鼻筋の起伏のかたちを、あたしは丁寧に記憶した。