慣れというのは、おそろしいものだと思う。

 はじめて未成年飲酒をしたとき、いけないことをしているような気分になってすごく興奮したのに、今のあたしはもう、そんな興奮にもすっかり慣れてしまって、ふつうの顔をしてアルコール飲料を喉に流し込んでいる。

 あたしをこんなふうにしたのは、佳乃くんだ。

 同級生たちがファーストフードやファミレスで恋人との時間を過ごしている傍で、あたしは曖昧な関係の男と夜遅くにお酒を飲んでいる。悪いことをしてるっていう自覚はあるけれど、佳乃くんのせいで、それもただの日常になってしまった。彼はあたしが高校生であることを気にしてはいるものの、べつにあたしがお酒を飲むことを止めることはしない。

 だけど、小綺麗なレストランで食事をしたり、お酒を口に含んで大人っぽく振る舞う自分に、優越感を感じないといえば嘘になる。



「なんで佳乃くんは、いつもきれいなお店に連れてきてくれるの?」

「下手な大衆居酒屋だと年齢確認されるからね」

「なにそれ。ロマンのかけらもありませんね?」

「あんまりやさしくするとおまえ調子に乗るから。ていうか、酔いすぎんなよ」



 別にへーきですけど、とむくれながらワイングラスを口につける。これがどれだけ美味しいものなのかはあまりよくわからないけれど、大人ってかんじの味がした。

 繁華街の片隅にある、黒を基調とした内装が特徴的なこのイタリアンレストランは、ワインが有名らしい。未成年だと疑われないように、服やメイクにこだわってとびきりのおしゃれをしてきたのが功を奏したのか、店員さんは当たり前のようにあたしにもワインを提供してくれた。

 佳乃くんはこういうお店がよく似合う。

 仕立てのよいタートルネックを着て、斜め上からきらきらの照明に当てられている佳乃くんの姿を見ているだけで酔いそうなのに、そこにアルコールも加わったものだから、あたしの頭はすっかりふわふわしていた。酔ってない、と言い張ってはいるものの所詮それは口先だけで、実際は、どこかに体重を預けていないとふらついてしまうくらいには酔っぱらっている。

 あー、ていうか佳乃くんしか視界に入らない。目を伏せているだけで格好いいってどういうことなの。佳乃くん、どこ見てるんだろう。変なとこ見てぼうっとしてるけど、そんなアンニュイな表情もまた至高だ。



「かーのくん。なにぼーっとしてんの」

「あー、BGM聴いてた」

「今流れてるピアノの曲?」

「そう。パッヘルベルのカノンっていうんだけど」

「詳しいね。ていうか、カノンって、佳乃くんみたい」

「響きだけで言ってるでしょ」



 佳乃くんの台詞の表面だけをなぞってけらけらと笑う。飲み慣れないワインのせいで、いつもより変な酔い方をしていることは明らかだった。頭がぼうっとして、うまく考えられない。



「ね。かのくん、すきー、」

「あー、もうべろべろじゃん」

「べろべろじゃないよ、ほろ酔いだよ?」

「酔ってるやつはみんなそう言うんだよ」



 佳乃くんが店員を呼びつけて、会計を頼む仕草をする。まだ飲んでいたかったけど、まあいっか。

 今日は外泊するっておかーさんに言ってあるし、これからきっと、佳乃くんとそういうことが起こるのだし。おしゃれなお店で食事をすることはただの前戯で、本番はきっとこれから。想像するだけで、切ない期待感で心臓がくるしくなる。