ドリブルをされたボールのリズムの合間を縫うように、きゅ、きゅ、きゅ、と体育館の床を踏みしめるシューズの音が高い天井に反響する。黄色いビブスを着たチームのうち、ひとりの女子がボールを放り投げると、それはバックボードに跳ね返り、リングの中に吸い込まれた。

 斜め上に手を伸ばして、得点板を2枚めくる。立ち上がる気にもなれないから、床にだらしなく座ったまま。



「てかさあ、聞いて。翔太、うちと別れて1週間で別の女作ったんだけどキモくない?」



 あたしとは反対側の得点板を担当している伊織が、ほかの3人にしか聞こえないくらいの声量で言った。

 伊織の言葉に最初に反応したのはあたしの左隣に座っていた彩海で、膝を抱えてコートを眺めながら「それはキモいわ」と同調する。「ありえない」と紗良。「サイテーじゃん」とあたし。



「新しい彼女誰なの?」

「西高のテニス部の女。インスタに翔太との写真載せてる」

「やば。まだ付き合って数日でしょ? はしゃぎすぎ」

「それさー、伊織と付き合ってた時期と被ってたんじゃない? じゃないとそんなに短期間で写真載せるとかおかしいって」

「だとしたら本気であり得なくない? 浮気とかマジキモいんだけど」



 あたしたちは1年A組の運命共同体。好きなものは、恋愛と、メイクと、誰かの噂話。伊織はネットストーキングが得意で、彩海は毒舌で、紗良はコスメばかり集めている。みんな総じて、前髪を守ることに命をかけている。嫌いなものは、浮気をする男と、浮気相手の女、元カレの今カノ、今カレの元カノ、それから、あたしたちに害のある人間全般。



「得点板合ってないよー!!」



 コートの中から、クラスメイトの女子の声がする。試合経過を全く見ていなかったので、適当に2点を追加すると、すこし離れたところにいた別のクラスメイトがこっそり「あと2点あると思う」と教えてくれた。たかが体育の練習なんだし、点数なんて別に何だっていいでしょ。面倒くさいな。



「宵は、もし彼氏に浮気されたらどうする?」



 座ったまま手を伸ばして得点板の数字を直していると、伊織から、そんな質問が降ってきた。

 あたし、浮気されたらどうなっちゃうんだろう。

 別に佳乃くんとは恋人ってわけじゃないけれど、仮に佳乃くんと恋人になって、佳乃くんに浮気されたら。あたしは何をしてしまうんだろう。

 いずれにせよ、平静を保てなくて大暴れすることになるのは目に見えている。



「ふたりとも、バットでぶん殴るにきまってる」



 ウケを狙うためにやや誇張ぎみに答えると、思惑通りあたし以外の3人が、げらげらと下品な笑い声をあげた。すると向こう側にいる先生から、「真面目にやれ!」と怒号が飛んでくる。紗良が声をひそめて「ダル」と先生の悪口を言うところまで、いつも通りだった。

 先生から注意されようとも、クラスメイトから苦笑いされようとも、あたしたちの会話は止まらない。

 今度は隣にいた彩海があたしの肩を叩く。



「てかさ、話変わるけど。宵、また彼氏できた?」