ふたつ隣の鏡の前で、ロングヘアの毛先からしきりに枝毛を探していた彩海が、あたしの発言に呼応する。
「確かにさ、こっちが数時間空けて返信してんのに、すぐ返してくる人、がっついてるみたいで嫌じゃない?」
「でしょ? こういう違和感って大事じゃない?」
「大事だけどさー、宵はすぐ男のこと切りすぎ」
「しょーがないじゃん。とにかくハヤトくんはナシなの」
「はいはい。教室戻ろー」
あと5分で予鈴鳴るよ、と言いながら、紗良がポーチのファスナーを閉める。次の時間何だっけ、と誰かが言って、数Ⅰ、と誰かが答える。トイレを出たあたしたちは、リノリウムの廊下を横に広がって歩いていく。
彩海、伊織、紗良、それから、あたし。流行り物が好きだとか、おしゃれに興味があるとか、そういった薄っぺらい共通点で繋がった、1年A組の運命共同体。好きなものは、恋愛と、メイクと、誰かの噂話。みんな総じて、前髪を守ることに命をかけている。
4人で教室に入ろうとしたときだった。ちょうど扉の前に立っていた男子生徒が、こちらを見て、大げさに声を上げる。
「あ、来た。宵さん、ちょっと」
教室の扉の前に立っていたクラスメイトの男子が、4人の中からあたしだけを呼び止めた。
彩海と伊織、そして紗良の3人は、そのままあたしを置いて教室の中に入っていく。呼ばれたあたしは立ち止まる。
「なに?」
「乃亜が宵さんに用あるって」
クラスメイトである男子の後ろ側から、乃亜と呼ばれた男子生徒が現れた。見慣れない人物ゆえに他のクラスの生徒であることは明白で、しかも一度も喋ったことのない人間だった。
しろくて陶器みたいにさらさらとした肌からは清潔な印象がするけれど、ノーセットで重ための前髪がやや野暮ったい。それが、彼に対する第一印象だった。
強いて言うなら、はじめて顔を合わせているはずなのに、その顔になぜかすこし見覚えがある気がする。
だけど、この高校に入学してから今日までの半年間、廊下ですれ違うことはあったにせよ、そもそも、あたしはこの人と接点がない。



