クリームと、コーヒー、ミルク、それからチョコレートが混じった、舌にこびりつくほどに甘いフラペチーノの味が、脳みその快楽中枢をひたひたに満たしていく。甘い物を摂取することでしか満たされない穴が確かにあった。

 愛用のワイヤレスイヤホンの中では、流行りのアーティストが恋とか青春を歌っている。派手で軽快なリズムは悪くないと思うけど、今の気分には合っていない。

 ガラス窓に面したカウンター席から、外の様子をぼうっと眺める。目の前を通り過ぎる影のひとつひとつに目が留まるたび、もしかしたら佳乃くんかもしれないって期待してしまうのに、目当ての男はちっとも現れやしない。

 サビの途中だったのに、イヤホンから流れる音楽がぴたりと止まる。

 見ると、テーブルの上に置いていたスマホが着信を知らせていた。応答ボタンをタップする。



『夢見さん? いまどこ?』



 通話の音声は、通話相手の声がそのまま流れているわけではなく、数千もの音声サンプルを使い、通話相手の声に最も近い音になるように合成音声を組み合わせて作られていると、テレビ番組で見たことがある。

 だから、電話越しに聞く兄弟や姉妹の声が、全く同じ声に聞こえることは、よくあることらしい。

 だとすれば、電話越しの乃亜くんの声が、佳乃くんの声によく似ているのは、仕方のないことなのだろう。

 どんなにその声が佳乃くんの声に似ていたとしても、他人行儀な「夢見さん」の呼びかけが、(たかぶ)りかけたあたしの気持ちを鎮めていく。声が似ていたって、顔が似ていたって、意味がない。佳乃くんは佳乃くんじゃなきゃいけないのだ。



「スタバで、佳乃くんのこと待ってる」

『連絡あった?』

「うん。やっぱりあたしとの約束は忘れてたみたいで、でも、遅くなるかもだけど、それでもいいなら駅前のカフェで待っててって」



 我慢するとか、耐え忍ぶとか、そんなこととは無縁の人生だったのに。佳乃くんから連絡が返ってきたのがうれしくて、しかも会う気はありそうな文面が送られてきちゃったものだから、佳乃くんを待たないわけにはいかなくて。

 結局、佳乃くんに言われた通り、町田家の最寄り駅にあるカフェに、のこのことやってきてしまったのだ。

 あたしは、いつ来るかもわからない佳乃くんを、ここで待ち続けている。

 ストローで意味もなく、プラスチックカップの中をかき回す。クリームと液体部分が混ざりあい、カップの底で茶色い渦を作っていた。最初のうちは可愛かったフラペチーノも、飲み進めるたびにどろどろと溶けて汚くなっていく。



『おれのとこにも連絡あったけど、あいつ、多分来ないよ』

「なんで」

『インターンの後って、大体飲み会があるらしいから』

「だとしても、佳乃くんが待っててって言うなら待つしかなくない?」

『……すげーな』

「んー。じゃあ、切るね」



 乃亜くんの返答を待たず、通話終了ボタンを押す。

 そのまま、なだれ込むようにカウンターテーブルに突っ伏した。もちろん、視線はガラスの外に向けたまま。