「え?」

「……いや、連絡してるならいいんだけど」



 佳乃くんが、朝からどこかに出掛けている?

 大丈夫か大丈夫じゃないかでいえば、たぶん、大丈夫じゃない。そもそも今日、佳乃くんに出掛ける用事があったなんて、聞いてないし。



「……佳乃くんからは何も聞いてない。でも、放課後の時間には帰ってくるでしょ?」

「どうだろ。インターンに行ってるなら、遅くなると思うけど」

「インターンってなに?」

「おれもよく知らない。就活の何か」



 佳乃くんの用事が何なのかはわからないけれど、とにかく、あたしの想像していない何かが起こっているのは確かだった。

 ひとまず自販機の取り出し口からミルクティーを拾い上げ、脇に抱える。ブレザーのポケットからスマホを抜き取り、メッセージアプリを立ち上げた。

 まさか、佳乃くんがあたしとの約束を忘れているわけがない。そう信じたいけれど、それを確信させてくれないのが佳乃くんの悪いところだ。あの人、すごく適当な人だし。



「一応、佳乃くんに連絡してみる」



 乃亜くんはかるく頷いて、今度こそ立ち去ってしまった。

 乃亜くんはここ最近、静観モードに切り替えたらしい。あたしから佳乃くんに向けた太すぎる好意のベクトルを目の当たりにした乃亜くんは、あたしに何を言っても無駄だと判断したのだろう。あたしの恋を応援してはくれないけど、「おれのいないところで勝手にやってくれ」と言うようになった。ありがたく、勝手にやらせてもらう。

 階段を上りながら、佳乃くんとのメッセージ画面を見返してみる。数日前にやりとりしたメッセージには、今日の日付が確かに記されていた。



〈今日の放課後でいいんだよね?〉

〈佳乃くんが朝から出掛けて行ったって乃亜くんが言ってたから、心配になっちゃって〉



 勢いのままに送信し、画面を閉じる。どうせ、返信はすぐに来ない。

 佳乃くんの返信スピードは、早いときと遅いときの差が激しい。早いときは数分以内に返ってくるし、遅いときはブロックされたんじゃないかって不安になるくらい放置される。

 一度、佳乃くんにブロックされているかを確認するために、スタンプをプレゼントできるかどうかを確かめる方法を試したら、勢いあまって本当にスタンプをプレゼントしてしまい、あたしの間抜けさを笑うために返信が来たこともある。だったら最初から返信してくれればいいのにって思うけど、こちらの常識なんて佳乃くんには通用しない。

 佳乃くんが返信を寄越してくるかどうかはそのときの彼の気分次第だ。こっちが期待してるときに限って返信が来なかったりするし、諦めた瞬間に返信が来たりもする。

 どちらにせよ、期待しちゃだめだ。そもそも用事があるのなら、スマホを見る暇なんてないかもしれない。

 そんなことを自分に言い聞かせてみたけれど、彼からの返信を期待しないなんて、無理な話だった。

 あたしは結局、休み時間のたびに机の下でこっそりスマホを開き、通知をチェックし続けた。