1年A組の教室を出てすぐそばにある階段を1階まで下りきると、階段脇に自動販売機がある。

 割高だし、品揃えがあまり良くないと生徒からは不評だけど、いつも飲んでいるミルクティーが置いてあるから、朝コンビニに行きそびれたときはたまに利用している。

 今朝もだらだらとメイクに時間をかけすぎたせいで、遅刻しそうになってしまいコンビニに寄れなかった。それでもミルクティーを諦めるわけにはいかなかったから、財布を持ってひとり階段を下る。彩海たちは数学の課題をやり忘れたとか言って、教室で問題集に齧り付いていたから、ひとりで来た。あたしも課題は終わってないけど、もう提出は諦めている。

 自動販売機の前にはすでに先客がいた。

 学校指定の紺色のジャージを身につけて、じゃらじゃらと小銭を連続して入れている。やや乱れた髪の毛と、すこし紅潮している頬を見るに、きっと体育の後なのだろう。



「乃亜くん、なにしてんの」

「飲み物買ってる」

「それはわかるけど」



 がこん、と音を立てて、ペットボトルが取り出し口に落っこちた。乃亜くんは屈んで、そこからスポーツドリンクを引っこ抜く。



「D組の男子って、体育なにやってんの」

「ソフトボール」

「乃亜くんは上手い?」

「そこそこ」

「えー、ぜんぜん想像つかない」

「昔習ってたから、ある程度はできるよ」



 乃亜くんはペットボトルの蓋を開け、その場でごくごくと喉を鳴らして飲み始めた。どんだけ喉乾いてたの。



「野球やってたの?」

「野球っていうか、ソフトボール」

「ほぼ一緒じゃん。じゃあ、なんで野球部入らなかったの」

「体育会系のノリが嫌いだから」



 乃亜くんの気持ちがさっぱりわからなくて、ふうん、と適当な相槌を打って誤魔化した。

 佳乃くんと関係を持たなければ、乃亜くんとは3年間ずっと関わることもなく卒業することもあり得ただろうと、たまに考える。考え方というか、思考を構成する根っこの部分が違いすぎて、会話が成り立たないというか。

 あたしも財布を開けて、小銭を探す。



「そーいえば。今日も佳乃くんのとこ行くから、鍵開けておいてもらえる?」



 百円玉2枚を投入口に捩じ込み、ミルクティーのボタンを押す。ちゃりん、ちゃりん、とお釣りが軽快な音を響かせた。3枚の硬貨のうち、1枚を掴み損ねてしまい、床に落ちる。転がって、乃亜くんの足元でくるりと円を描く。彼はそれを拾ってあたしに手渡してくる。



「佳乃、朝からスーツ着て出掛けて行ったけど、大丈夫なの」