元カレは、AVを観てあたし以外の女に欲情したから、別れた。
その前のカレは、前髪の変化に気付いてくれなかったから、別れた。
さらにその前のカレは、話がつまんなかったから、別れた。
別に多くを望んでいるわけじゃない。だけど、最低限の相手で満足できるほど、自分を捨てているわけでもない。
できれば格好いいひとがいい。できれば話が面白いひとがいい。できれば背が高いひとがいい。できれば色気のあるひとがいい。プラスになりうる要素があるのなら、それを兼ね備えているひとの方が、いいに決まっている。
みんなはあたしを傲慢だっていうけれど、あたしはただ、追い求めたいだけだ。
将来の夢を叶えたい。希望の大学に行きたい。楽しく遊びたい。美味しい食べ物が食べたい。そうやって誰しもが大なり小なり欲望をかかえているくせに、夢みたいな恋をしたいという欲望にはなぜかみんな厳しくて、現実を見ろだとか、身の丈を考えろとか、そういう正論であたしの恋を殺しにかかっている。
「宵、話聞いてる?」
隣から降ってきた言葉に、んー、と間延びした返事をする。チェリーのような色の液体で彩られたチップで唇をなぞると、唇に色が戻った。ラメの入った艶やかなリップグロス。これがあたしの生命線だった。
顎下で切りそろえられたボブカットの毛先が、グロスのついた唇に張り付きそうになるのをすんでのところで振り払う。トイレの壁面に取り付けられた鏡を覗き込みながら、唇をあわせ、グロスのつき加減を調節した。
「ごめん、なんの話だっけ」
「だからさ、ハヤトくん、どうなったのって」
「べつに、なんにもない」
「連絡取ってたんでしょ?」
「やりとりはしてたけど。なんか、返信早すぎて萎えるんだよね」
グロスの蓋を閉めると、そばにいた3人がけらけらと乾いた笑い声をあげた。



