スーパーラブじゃ、モノ足りない! 〜仮面生徒会の舞台ウラ〜

2.

「では、ただ今より入学式を開始します」

 ステージ脇のスタンドマイクで司会の生徒が一声を発した。
 新入生は、大きな体育館のフロア部分に並べられたパイプ椅子に着席しており、二、三年生は、体育館両側の観客席に座っている。

「まずはじめに、校長先生より、お祝いのお言葉をいただきます」

「ハイ!」

 ステージ下には、新入生に向き合う形で先生方、来賓の方々が座っておられ、その中から一人の女性が元気よく返事をし、スクッと立ち上がった。

 ステップを上がってステージに向かう女性は、アタシたちと同じ制服姿だ!?

「さっき、司会の人、校長先生のあいさつって言ったよね?」
「ひょっとして生徒会長の間違い?……まさか新入生代表?」

 フロアがざわつく。
 観客席の二、三年生の席からは『あちゃー、やっぱやったか』とか『こないだの卒業式もそうだったよな』とかの声も聞こえる。
 主賓席では、鬼瓦のような顔をした大柄なおじさんが頭に手を当ててうつむいた。

 その女子生徒は演壇に立つと、姿勢を正し、まるでキャビンアテンダントかホテルのスタッフさんみたいに優雅にお辞儀をし、顔を上げるとニッコリと微笑んだ。

「新入生のみなさま、愛求学園にようこそ。そしてご入学おめでとうございます」
 品格を感じる声でお祝いの言葉が発せられた。この人、やっぱり生徒会長かな?

 その女子生徒は、両手を肩の高さまであげ、自分の体を見回して言った。

「今年度から制服変えてみたの。これ、なかなかいいでしょ? 私、似合ってるよね、ね! ね?」
 フロアのザワザワが大きくなる。

「あ、ごめん、自己紹介するの忘れてた。私、この学校の校長をやってる、桜羽 遥(さくらば はるか)って言います!」

 一瞬静まり返ったあと、新入生が座る一階席から、さらに大きなざわめきが起き、二、三年生の席からは『ハルカ先生、似合ってるよー!』とヤジが飛ぶ。

 校長先生?は、片手を上げ、ざわめきを鎮める。

「よくさー、長くてつまんない話の例えで、『校長先生のあいさつ』って揶揄(やゆ)されるじゃない? 私、そんな風に言われるの、ヤだから、ちょびっとしか喋んないわよ。だからみんな、聞き逃さないようにしてね♡」

 そう言って先生は演壇の前に出てステージのヘリに立った。
「あ、その前に……この学校の名前はなんだったっけ?」
 JK制服姿の校長先生が首を傾け、回答を促す。

「あ、愛求学園ですけど」
 沈黙に耐えられなかったのか、新入生の男子が答える。

「グッド! ていうか誰でもわかるか……じゃあさ、この学校の『建学の精神』て知ってる?」
 先生は片手を上げて、フロアを見渡す。

「あ、愛の探求……ですか?」
 今度は女子生徒が答えた。

「おーっ、よくわかったね! っていうか、学園の名前そのものよね……この言葉には、生徒たちがお互いに愛を抱き、尊重しあい、学園生活とその後の人生を幸せに送れるように学ぼうね、という願いが込められているのよ」

 『ハルカちゃん先生、めずらしくマトモなこと言っている!』と二階の観客席からヤジが飛び、笑いが起きる。

「それでですね……いきなりまとめます!」
 そう言って先生は片手をまっすぐ上げて、天井を指した。

「あなたたち新入生に贈るお祝いの言葉は……」
 場内が静まる。


「その言葉は……『超・愛』スーパー・ラブ! です。 みんな、おめでとう」
 
 そして校長先生はまた姿勢を正し、キャビンアテンダントみたいに優雅にお辞儀した。

 アタシたち新入生たちは拍手をするのも忘れ、足早にステージを下りる制服姿の先生を呆然と眺めていた。

 アタシは思った……いやきっとみんな同じ風に思っているに違いない。
 この学校は、県下では有数の進学校だということで、がんばって受験勉強してココに入ったけど、大丈夫だろうか?……と。
 
 校長先生がユニークだって噂ではちょっと聞いたことがあったけど、JKの制服を着て入学式に出席して『スーパー・ラブ!』て叫ぶなんて。

 在校生から少しヤジが飛んでたけど(……それもどうかと思うけど)、みんなそんなに驚いてなかったし、前に並んでおられる先生や招待の方々は、わりと落ち着いていて……というかこれ、諦めの表情ね。

「……校長先生、ありがとうございました。続きまして、生徒会長と副会長からあいさつがあります。桜羽会長、倭(やまと)副会長、お願いします」

 え、桜羽さん? 校長先生と同じ苗字?

 男女の生徒が演壇に立ち、さっと礼をした。

「新入生の皆さま、本日はご入学おめでとうございます。生徒会長の桜羽夏鈴(かりん)と申します。えーと、すぐわかってしまうことなのでネタバレしますね。名前から察せられる通り、私は校長先生の親族、従妹です。あ、でも特別に贔屓なんてしてもらってませんよ……ちょっと暑っ苦しく『溺愛』されてますけど」

 会場からクスクスと笑いが起きた。小柄で可愛い会長さんもニッコリと笑った。

「会長、いいツカミかたやわ」
 会長さんの隣りの男子生徒が合いの手を入れた。

「あ、忘れてました。私の隣にいるのは、副会長の倭 丈瑠(やまと たける)です」
「えー、ただいまご紹介いただきました、ジブン、ヤマトタケル言います。みなさん、ご入学……」

「では、話を先に進めます。」
 会長さんが割って入り、そんなもうちょっと喋らせてえなーと副会長さんがブツブツ言っている。夫婦漫才か?

「さきほど校長先生のごあいさつで、いきなり『(声真似で)超・愛、スーパー・ラブよ!』なんてキーワードが出てきましたけど、少しかみ砕いて説明しておきます」

 会長さんはコホンと咳払いして続ける。
「わが校では、三年前、さきほどみなさんが答えてくれた建学精神に則(のっと)り 、ただの精神論だけでなく教育プログラムや評価制度の改革を行いました。当時の生徒会長と校長先生がタッグを組んで作り上げた、『愛の結晶』です」
 そう言って、会長さんはなにか意味ありげにニヤリと笑って二、三年生の座席を見渡した。

「愛とはなにか? それを『ルダス、プラグマ、ストルゲ、アガペー、エロス、マニア』の六つに分解して、自分の周囲との人間関係において、どのような愛を持って接するべきかを相手を思いやる気持ちとともに考え、実践していこうというものです」

「このとりくみを始めてから、生徒同士の人間関係もよくなって、ご家族や近隣の方々からも評判ええんですわ」
 タケルが補足し、ドヤ顔を見せる。

 それを無視して可愛い会長さんが話を進める。
「この成果を踏まえ、さらに次を目指そうか、と生徒会のメンバーや校長先生と話している最中なんです」

「えーっと、それ具体的にどないなことやろか?」
「いやそれ、アンタも、じゃなかったヤマト君とも話したと思うけど。特にあなたにも十分関係があることなのに」
「そやったやろか? まあそんな冷たいこと言わんといて、ヒントだけでも……」
会場から笑いが起きる。

「どっちみち、新入生のみなさんに話そうと思ってたことだからいいけですど」

会長さんは、私たちに向き直り、口を開ける。
「今、ジェンダーレスやLGBTQなど、従来の固定観念に縛られない人間関係のあり方や社会制度の見直しなどが進んでいます。しかし、学校という社会は、このような動きから一歩も二歩も遅れているのが現実と言わざるを得ません。そこでわが校が先駆けてこのような古い習慣や考え方を崩し、超えていこうと考えているわけです」

「なるほど、それで『スーパー・ラブ』ちゅうわけやね!」
「……その安っぽい通販番組みたいな合いの手の入れ方、やめてくれない?」

 再び新入生の間から笑いが起きる、このお二人、息があってるんだかあってないんだかよくわからないけど、これはこれで面白いな。

 気を取り直して、副会長さんが質問する。
「で、『スーパー・ラブ』っちゅうのは、具体的にどないなことすんの?」
「……そうね、それを生徒会役員が中心となって、みんなで考えて行かなくちゃいけないんだけど……実をいうとね、この学校の生徒会役員の任期は五月までで、六月から新役員で運営されるの。だから、『スーパー・ラブ』に関しては新メンバーに引き継いで考えてもらうことになるわ」

「そうすると、これからすぐに生徒会役員の選挙があるっていうことでんな?」
「そう。で、生徒会は一、二年生が中心メンバーになるから、新入生のみなさんにもぜひ参加して欲しいの」
「ははー、さては桜羽会長はん、生徒会からの入学祝いのあいさつの時間を利用して、生徒会役員の勧誘をしようっていう魂胆やったんやな?」
「まあ、そういうこと」

 小柄な生徒会長は、体育館の座席全体をぐるりと見回す。
「新入生のみなさん、二年生のみなさん、生徒会に積極的に参加して、より楽しい学園生活を送りましょうね! あ、私と、このヤマト君は六月からも『生徒会アドバイザーと』してサポートするから安心してね」

「え!? ジブンも残るん?」
 副会長が驚きながら自分を指さす。
「あったりまえじゃない! どうも失礼しましたー!」
 会長は副会長の頭を無理やり押冴、二人で一礼して、ステージを下りた……と思ったらまた上がって来た!?

 生徒会長がちょこんと頭を下げる
「あの、忘れてました……せっかくなんで、みなさんへお祝いの歌を贈ります」