スーパーラブじゃ、モノ足りない! 〜仮面生徒会の舞台ウラ〜

 暗転したステージの向こうから、地鳴りのような歓声が押し寄せてくる。
「S.E.X.Y.! 生徒会! 生徒会!」
「冴(さえ)様ー!」
「陽向(ひなた)さーん!」

 無数のサイリウムの光が、重たい緞帳(どんちょう)の隙間から漏れ出し、私たちの足元を切り裂くように照らしていた。


 舞台袖の暗がり。
 ギターアンプのボリュームを確認する。

 私の隣には、いつものように瀬戸陽向が立っている。

 私にだけ聞こえる声で囁いた。
「……震えてるのか、会長?」

「武者震いよ。あなたこそ、振りつけ間違えたら承知しないから」

「ハッ、知ってるだろ? 俺はステージで本領を発揮するタイプなんだ」
 そう言って彼はニヤリと笑い、私の手を握る。その手は熱く、力強い。けれど、そこに恋慕の情は一ミリもない。あるのは、これから共犯者として戦場に向かう『同志』としての、硬質な信頼だけだ。

 ふと、視線を感じて振り返る。

 私の斜後ろ、二段のキーボードを前にして、同じく出番を待つ書記の京野ハル。
 会計の一条怜(れい)は、ハルとハイタッチをして前に進み、陽向の隣に並び立った。

 キーボード&ボーカルの子は緊張で少し青ざめた顔をして、自分の衣装のリボンをギュッと握りしめていた。

その視線が、暗闇の中で私と絡み合う。


――大丈夫。

 私は、繋がれていない方の手で、小さく親指を立ててみせた。

 ハルの瞳が揺れ、そしてふわりと、花が咲くように微笑む。

 その笑顔を見た瞬間、私の体から恐怖が消え失せた。


 ああ、滑稽だ。

 観客席の生徒たちは、これから私たちが『理想の男女カップル』として、恋の歌とダンスを披露すると信じて疑っていない。

 校則に従った、模範解答のような愛の歌を。


でも、残念ね。

 今から私たちがこのマイクで叫ぶのは、そんな綺麗なものじゃない。

 もっと泥臭くて、情念たっぷりで、計算式じゃ割り切れない「本当の愛」だ。


 陽向が、怜と視線だけで合図を交わすのが見えた。

 怜が、眼鏡の奥で鋭く頷く。

 ハルが、小さく息を吸い込む。

「行くぞ、愛求学園生徒会」

 陽向の静かで温かな号令。


 イントロが鳴り響き、少し遅れて幕が開く。

 それは、この学園の常識をぶち壊す、不協和音のダンス・ミュージック。

 私は、隣にいる『元恋人、そして偽りの恋人』の手を強く握り直し、眩しい光の中へと一歩を踏み出した。

 『学校公認の嘘カップル』も、今日まで。

 さあ、行こう。
 そしてみんなに教えてあげよう。

 これが、私たちが求めてやまない『愛』よ。

 この春に出会った私たちが創り上げた、新しい方程式を。