ちょ、近すぎますってば蒔田さん!

 「――時間が勿体ない。いまここで作業しても構わないか?」
 言って上司は中腰であろう半端な体勢のままでプログラムの修正をしだす。
 目に見えないほどの鮮やかなスピードで、鮮烈。ひええ……! 
 蒔田さんの頭のなかってどうなってんの?
「これで、……よし。と」
 マシンガンのごとく凄まじい速度で完成させた上司は、ふぅ、と息を吐き、
「次からは榎原くんにこういうのの直し方も教えてやんないとだな。……ま、ぼちぼちで行こう」
 あ……上司が離れていく……。
 空気があったかかった。気配が……男らしくてどきどきした。
 蒔田さんの匂い。職場でそんな接近することなんてないのに……すごく近くに蒔田さんの気配を感じて……手さえ前に回せばバックハグされているみたいな体勢で……ううう。
 体幹が鍛えられているのか。機敏に立ち上がる上司は、デスクに右手をつくと、あたしの目を覗き込み、
「分からないことがあったらすぐに聞くように。……あと、残業もほどほどにな。思いつめるな。帰ってさっさと飯でも食え」
 そうして、残業三昧でハードワーカーの上司は自席へと戻っていく。
 自分が辛い、なんて感情は微塵も見せずに。

 ――のちに、この上司と、彼氏彼女の関係が無事成立したときに問うてみた。

「蒔田さんってば。あんなこと言って、本当は、……あたしのことを意識していたんじゃないですか?」
 あたしの髪を手で梳く蒔田さんは、
「馬鹿言え。職場で公私混同する上司がいてたまるか」