ちょ、近すぎますってば蒔田さん!

「どれ。見せてみろ」
 デスクの左に上司の白い手が添えられた――と思ったら、ぐ、と上司の屈む気配。
 ひええ……蒔田(まきた)さんの息が頭のてっぺんに吹きかかる。
 頭の毛が逆立ちそうだ! 
「ふぅむ。……こいつぁ、なかなかのもんだな……」
 パソコンを前に完全に固まったあたしをよそに、視線だけ右に向けると上司は顎を摘まみ、険しい顔つきで画面をただ凝視している。この世界で、男女だということを意識しているのはあたしだけなのか。
 近い……それにしても近い……!
 うう……蒔田さんってば、すんすん……なんか……いい香りがする……!
 男の猛々しさと、アンバランスに合わさった、凛々しい百合のような淡い……青を思わせる香り。
 ダメだ。完全、ノックアウト。
「センスねえな。……コメントアウトで説明を加える暇があったら、もうすこし、ユーザビリティを考慮したプログラミングをして欲しいものだな。まったく、下手に技術があるやつは無駄に誇示する性癖があるものだから、困った。困ったものだな。榎原(えのはら)くん」
 完全に脳内中枢をやられたあたしをよそにぶつぶつと上司は言う。
 恐ろしいことに、無自覚だ。
 あたしの左手のすぐ横に彼の左手があって、屈む上司があたしの真後ろにいて、右手はマウスを握るあたしの手の横に置かれ、まるで、後ろからハグされているかのような体勢なのに! ひええ! 
 どきんどきん! 蒔田さんの息遣いを感じるよぅ……! ひゃああ!