学校がこわい君へ ~ようこそ! ここはポン先生とカンちゃんの『学校攻略作戦室』です

 午後。

 わたしは家の外へ出た。

 正直、少しだけ怖い。

 でも、ポン先生の変な顔と、カンちゃんのメッセージを思い出したら、なんだか笑えてきた。

 「学校攻略作戦室」のドアを開ける。

「おっ!」

 ポン先生が立ち上がった。

 白髪の頭がぴょこんと揺れる。

「ヒマリ隊員、出動ご苦労!」

「隊員じゃないです」

「そうだった! 総司令官だった!」

「ちがいます」

 すると、横からカンちゃんが言った。

「気にするな。ポン先生の脳内設定だから、ムシムシ」

「ひどくない? 高齢者を敬えとあれほど……」

 ポン先生が肩を落とす。




 なんだろう。

 この人たちといると、少しだけ力が抜ける。

 その時、部屋のすみで、男の子がびくっと肩を震わせた。

 初めて見る顔だった。

 小学4年かな? 5年かな? 

 机に向かってうつむいている。

「新メンバー?」

 わたしが小声で聞く。

 カンちゃんがうなずいてささやいた。

「ソウタさんていうの」

 男の子は顔を上げた。

 でもすぐに目をそらす。

 カンちゃんが続けた。

「学校で男の先生が、すごく大きな声ですごい迫力で怒鳴ったんだって」

「そっか。やだよね、わかる」

「それ以来、大人の大きな声が苦手」

 わたしは胸が少し痛くなった。

 ソウタさんは、こわいんだ。

 わたしは友達がこわい。





 こわいものは、人によって違う。

 友だちだったり、

 教室だったり、

 先生だったり。

 でも、

 こわい気持ちは、本物だ。




 その時だった。

「ソウタ!」

 突然、ポン先生が大声を出した。

「ひっ!」

 ソウタくんが飛び上がる。

 わたしもびっくりした。


カンちゃんが頭を抱える。

「ポン先生ぃぃ!」

「大丈夫だ!」

「何がですか!」

 

 でも、

 ポン先生は真面目な顔をしていた。

「すまん、今のは失敗だ」

「最低だな」とカンちゃん

「最低ですね」とわたし


「うむ!」とポン先生がなぜか胸を張る。



「子どもの世界にはな」

 ポン先生は立ち上がった。

「失敗してもいい場所が必要なんだ」

 そして。

 ソウタくんの目線までしゃがんだ。

「びっくりさせてごめんな」

 優しい声だった。

「今のは失敗だ。先生は昔からいっぱい失敗し続けてきた」

「……本当?」

「本当だ。通知表に『落ち着きがない』って毎年書かれた」

「先生なのに?」

「先生になる前だ!」

 ソウタくんが少しだけ笑った。

 わたしも笑う。

 カンちゃんはあきれた顔をしていた。

 だけど。

 その口元は少しだけ優しかった。

 窓から爽やかな風が入ってきた。




 わたしは思った。

 ここは学校じゃない。

 学校へ戻るためだけの場所でもない。

 心に傷を負った子供たちが、少しずつ笑えるようになる場所。

 学校攻略作戦室、

 わたしもソウタさんの役に立ちたい。



 紙に書いた
・ここにきたから  丸
・カンちゃんとハイタッチできれば  二重丸
・ポン先生に「大きな声ださないで」といえたら 花丸

カンちゃんがちらっと見た。

「いいじゃない」

ソウタさんの前に行った。

「あの、わたし、ヒマリ」

「……」

「これ、見て」

紙を差し出した。

ソウタさんはにこりともしないで受け取った。

ああ、迷惑だったかな。

カンちゃんが割り込んできた。

「ソウタさん、よかったね。すでに丸だよ。

 ハイタッチしようか?

 ほらー、いえーい!」

ソウタさんは暗い顔でハイタッチをした。

「これで2重丸。次はポン先生だ。

 いってやりなよ。うるせーぞって」



ソウタさんは首を振って、パーカーをかぶりポケットからマスクを出してつけた。

「ああ、いいよ。

 自分のペースでやっていこうな」

カンちゃんが笑った。

ポン先生が、静かな音楽をかけた。




爽やかな午後、ゆったりとした時間が流れている。

これでいいんだ、ここは。

【完】