「……じゃ、じゃあなんで学校では手を繋いできたの?」
「あれは不可抗力です。ここではしません」
あのとき静が私の手を掴んだ理由。
深澤くんに「また明日」って言われて、私が手を振り返そうとした、その瞬間だった。
まるでそれを阻止するみたいに、静は私の手を掴んだ。しかも、かなり強く。
あれが“不可抗力”で済まされるなら、世の中の不可抗力のほとんどは不可抗力じゃない気がする。
「……不可抗力ってなに?」
思わず聞き返す。意味が分からない。
「学校で睨んできたのはなに?」
ひとつ聞いたら、またひとつ思い出してしまう。
「授業中、髪を触ってきたのはなに!?」
そうだ。これもだ。
なんであんなに何度も私の髪を引っ張ったのか。しかも、私が深澤くんと話しているときばかり。
あのときの静は、明らかにおかしかった。
いや、普段からちょっとおかしいけど。満員電車で痴漢のおじさんに「会社潰そうかと」とか言っちゃうし。
……でも、今日の静はそれとはまた違う。
なんだか、私に対してだけ妙に――
「……。」
じっと静を見つめる。すると静は、ほんの一瞬だけ口を開いた。
何か言おうとしたのだろうか。でも、そのまま口を閉じる。さらには、ふっと瞼まで閉じてしまった。
「…………。」
「…………。」
「は……はぁ!?」
まさかの黙秘!?なにそれ!答えたくないってこと!?
「ちょっと、静!?」
呼びかけても、静は何も言わない。
目を閉じたまま、まるで私の質問なんて聞こえていないみたいに立っている。
「なんで黙るの!?」
それでも静は黙ったまま。
……もう、知らない!こいつ、本当に昔からこういうところある!
自分からは何も話さないくせに、聞いたって肝心なところは答えない。
7年も離れていたんだから、私は静のことをほとんど知らない。
静が自分から話してくれないなら、せめて私が聞いたことくらい答えてくれたっていいじゃない。
そう思ったら、だんだん腹が立ってきた。
気づけば、頭より先に身体が動いていた。
「もういい!」
勢いよく襖を開ける。そして、そのまま静の手首を掴んだ。
「……え?」
珍しく静の声が上ずった。驚いている。そんな静の顔が一瞬見えたけれど、今の私はそんなこと気にしていられない。
「こっち!」
「ふみさん?」
グイッと手首を引っ張る。静の身体が、少しだけ前へ引かれた。
背の高い静を、私の小さな力で引っ張るなんて無理だと思ったのに、静は抵抗することなく、そのまま私についてきた。
そして――そのまま部屋の中へ。
「……ふみさん」
「なに!」
「これはまずいです」
「まずいって、なにが!?私の部屋にボディーガードがいることのなにがまずいの!?」
静は答えない。
それどころか、額に手を当てて、呆れたように大きくため息をついた。



