## 第1話 「最悪な敵」
カラン——。
放課後のカフェ花園に、
ドアベルの音が響く。
「いらっしゃいませ!」
私は笑顔を向けながら、
注文用のメモを持って顔を上げた。
……そして固まる。
そこに立っていたのは。
黒髪に、
少し垂れた優しそうな目。
制服をゆるく着崩した男子。
そして首から下げられた、
見覚えのある和柄のストラップ。
隣の店——
老舗和カフェ『雲茶』のロゴ。
「……え」
私が固まっていると、
男子はふわっと笑った。
「こんにちは、らてちゃん」
「な、なんで名前知ってるの!?」
「有名だもん」
にこにこ。
なんなの、この人。
というか。
「敵店の人、ですよね?」
「あはは、敵店って」
男子は楽しそうに笑う。
「俺、雲茶まち」
やっぱり。
雲茶の息子だ。
最近、お父さんがずっとピリピリしてる原因の店。
“昔ながらの雰囲気だけでやってる店”
とか言って、
めちゃくちゃ対抗意識燃やしてる。
その息子が、
なんでここに!?
「注文いい?」
「あ……はい」
「じゃあ、らてちゃんおすすめで」
「えっ」
普通、
そういうの困るんだけど……。
でも、
まちはじっと私を見つめたまま笑う。
大型犬みたい。
人懐っこい。
けど——。
なんだろう。
その視線に、
少しだけ胸がざわついた。
「……じゃあ、花園ラテにします」
「名前一緒なんだ」
「お店の人気メニューですから!」
「ふーん」
まちはカウンター席に座る。
その間も、
ずっと私を見てくる。
……なんか接客しづらい。
数分後。
私はラテを運んだ。
「お待たせしました」
「ありがと」
まちは一口飲む。
そして、
目を丸くした。
「……おいしい」
「っ、ほんとですか!?」
「うん」
その瞬間。
まちは、
少し寂しそうに笑った。
「でもさ」
「?」
「この店できてから、
雲茶のお客さん減ったんだよね」
私は言葉を失う。
急に空気が重くなった。
「…………」
「だから最初、
らてちゃん嫌いだった」
「え……」
嫌い。
その言葉に、
胸がちくりと痛む。
だけど。
「でも」
まちは頬杖をついて、
まっすぐ私を見た。
「会ったらもっと無理だった」
「……へ?」
「かわいすぎて」
「はぁ!?」
一気に顔が熱くなる。
な、何この人!?
距離感バグってる!?
「ちょ、そういうのやめてください!」
「なんで?」
「なんでって……!」
まちはケラケラ笑う。
その笑顔は、
本当に子犬みたいで。
なのに。
「……らてちゃんってさ」
「?」
「誰にでも優しいの?」
突然、
声色が変わった。
私は瞬きをする。
「え……?」
「学校でも、
男子に囲まれてるじゃん」
「な、なんで知って……」
「見てるから」
ぞくっ。
一瞬だけ。
背筋が冷えた。
けれど次の瞬間には、
まちはまた笑っていた。
「……あ、ごめん。引いた?」
「い、いや……」
なんだろう。
この人。
怖い。
……のに。
どうしてか、
目が離せなかった。
