「ごめんね、作業中なのに、お騒がせして」
その人の人差し指が私のノートパソコンを指す。
あら、案外……良い人?
男女の別れ話はいつ火がつくか分からないものだ。かく言う私も、外面だけは良いエリート気取りの同級生彼氏のほんの些細な間違いを指摘しただけで、レストランに置き去りにされた過去がある。
「いえ、えっと……ええっと……これ、どうぞ」
不幸仲間として見るに耐えかね、ハンカチを差し出した。
「ああ、ありがとう」
その人は私の手元を見て、少しだけ驚いたように目を見開いたけれど、すぐにそれを素直に受け取り、濡れた顔や前髪を丁寧に拭い始めた。
「あの……」
「ん?」
「彼女さん、追いかけなくていいんですか?」
お節介だとは分かっていた。けれど、ぶちまけられた水の量が彼女の絶望を物語っているようで、つい口が滑ってしまったのだ。
男はハンカチを顔から離し、濡れた睫毛の奥にある切れ長の瞳を気怠げに細めた。
「別にいいよ。もう他人だから」
うわあ……ドライ……。
彼の口調には、罪悪感や怒りといった、感傷すらもひとかけらも混ざっていないように感じられた。
現代人、怖い。



