寝不足の重い頭をごまかすように、イヤホンを耳に入れると、アップテンポな曲を選んだ。アイスカフェラテをくちに含むと、まろやかでやさしいミルク感に嬉しくなる。キーボードを叩いていると、音楽の隙間を縫って、話し声が聞こえてきた。
……けれどそれは、談笑と言うには鋭すぎた。
「そういうところが無理って言ってるの」
しまった、と、後悔した時にはもう遅い。
喧嘩だ。隣のテーブルには、触れれば壊れてしまいそうな空気をまとった男女が座っていた。
だからこの特等席が空いていたのか……!!
こういう時、私はまるで自分の事のように感じてしまう。なんとなく、自分の身体がどんどん小さく縮んでいくような心地がして、背中を丸める。
女性の方は今にも泣き出しそうなほど視線を揺らしていた。反して、向かいの男は……
──あら、かっこいい人。
狭いカフェの椅子が小さく見えるほど、すらりと長い四肢。仕立てのいいネイビーのスーツの上からでもわかる、鋭角的で美しい骨格。
わずかに首を傾げた拍子に、額にハラリと落ちた癖のない黒髪。その隙間から覗く切れ長の瞳は、涼しげで、どこか触れるものを拒むような冷徹な光を孕んでいる。窓から差し込む斜光を浴びた横顔は陶器のように白く透き通っていて、鼻梁から顎にかけてのラインが恐ろしいほどにシャープだった。



