「とにかく、今日はもう帰って寝な。……って言っても、家じゃ眠れないんでしょ」
凪智の声が現実へと引き戻す。
「うん。レポートの締め切りやばいんだよね」
「ここで寝るより、気晴らしにカフェでも行きなよ。捗るんじゃなーい?」
「凪智警部大変です。水澄巡査、月末につきお金がピンチです」
「知ってる」
凪智はそう言って「はい、睡眠不足代」と、自分の財布から、少しくたびれた千円札を一枚抜き取って、私のノートパソコンの上に滑らせた。
「いやいやいや、貰えないよ」
「今度学食奢ってくれればいいから。はい、今から教授が来るからうるさくなるよ」
「凪智ってさ、時々お母さんみたいだよね」
「時々じゃなくて常にでしょ。ほら、早く行きなさい」
お母さんと化した凪智に、半分追い出されるようにして院生室を出たあと、私は大学近くの、古い雑居ビルの二階にあるカフェに入った。
外観とは違ってお洒落な店内は、焙煎されたコーヒー豆の濃い香りに満ちていて、窓際の席だけが、まるでそこだけ切り取られたようにぽっかりと空いていた。
やった!ラッキー。
アイスラテをひとつ頼み、ノートパソコンを開く。



