けれど、結局あれから二週間、お兄さんとはすれ違うどころか会うことさえしていない。
そもそも、着ていた服の色や髪型が違えば気づくのは至難の業。たった一度会った人よりも毎日同じ電車で通勤する他人の方が覚えているだろう。
またね、に時効があるのだろうか。
あまつさえ私は、あの言葉が夢か私の妄想が作り出した、都合のいいまぼろしだったのではと考えるようになった。
「そういえば、こないだ見ず知らずの人に、騙されそうだねって言われたんだよね」
だけど、第三者に言うと現実味が増しそうな気がして、口を割ることにした。
「え?どういう状況?」
凪智はまるで推しであるアイドルの配信が今始まったかのごとく、すばやく反応した。
「お店で女の人にお水ぶっかけられてるイケメンがいてさ?」
「待って何その状況、スプラッシュマウンテンかよ。心綸引き強すぎでしょ」
「セフレと別れ話?したんだって。その人に言われたんだ。かっこいい人だったな~……」
けれど、未だにあのお兄さんは私の中で、好きにならない方が良いランキングぶっちぎりで一位だ。



