「さっきの子が食べる予定だったんだけど、俺は要らないから良かったら食べて」
「……いただいていいんですか?」
「うん。ハンカチ貸してくれたお礼、と──」
その人は、窓からの斜光をその長い背中に浴びながら、とろけるような美しい笑みを浮かべた。
「俺を心配してくれたから」
その声の響きがあまりに優しくて、不覚にも、私の心臓がトクンと跳ねてしまう。中身は最悪なはずなのに、この造形美は正直ずるすぎる。
「お兄さん、めちゃくちゃモテますよね」
半分は、天然な人たらしに対する皮肉のつもりだった。けれど彼は、私の防衛反応なんてお見通しだというように、切れ長の目を悪戯っぽく輝かせる。
「お姉さん、悪い男に騙されないようにね」
「……なんですか、それ」
からかわれたことが悔しくて、私はアイスラテのストローを少しだけ強く吸った。
かっこいいのに、もったいない人だな……
──そういうとこ! 他人の事情にすぐ首を突っ込むとこが危ないって言ってるの!
脳内で凪智が叫んだところで、考えるのをやめた。せっかくなので、ケーキをいただこうじゃないか。だって、ケーキに罪は無い。
その人はそんな私を満足そうにひとしきり眺めたあと、おもむろに立ち上がった。
「じゃあ、またね」
「あ、はい……」
──またね?
私の疑問など置いて、ひらひらと大きな手をゆるりと振る彼はあっさりと離れていった。嗅ぎなれない、甘い香りを残して。



