私の彼氏、じつは暴走族の総長でした!?

「海くんが、暴走族の総長!?」

静まり返った部屋に
私の背中をぞくぞく震わせたのは

今、私の目の前にいる
"彼氏"だ。

「あぁ、わりい」

 海くんが?

.....どうして?

~14時間前〜午前8時~

「変じゃないかな」

私はスカートの裾をギュッと引っ張る

今日は海くんと付き合って半年記念日。


髪の毛も巻いた。

少しだけ...制服でオシャレしてみたけど....

「莉乃おはよう」

私の後ろから首元に腕を回してギュッとしてきたのは海くんだった。

「髪の毛可愛いじゃん」

フワッと香るのはタバコの匂いが染みついた制服からだった。

「海くん、タバコ臭い.....」

「お父さんが吸ってるからね」

そうだよね、海くん真面目だもん。

そんなわけないか.....

6ヶ月前の2月10日

高校1年生の時に
海くんとの帰り道に告白された。

雪がチラチラ降っていた。
手が悴んで、私の鼻がツンと痛かった時のこと。

"莉乃、俺と付き合って"

海くんの視線が私を離さず真剣な目だった。

いつも優しい声で私を呼んでくれる。

喧嘩した時だって、謝ってくるのはいつもいつも海くんの方からだった。

「海くん、今日で6ヶ月記念日だよ?今日は一緒に帰ってくれるよね?」

「ごめん、今日は用事があって....」

海くんの表情は申し訳なさそうにしていた。

「そっか」

海くんに気づかれないように無理して笑った

海くんの事、私ばかり好きみたいじゃん。

私は無言で海くんの隣を歩く。

廊下には多くの生徒の足音と笑い声が聞こえる。

教室に入ると私は自分の席に着いた。

海くんの席は私の後ろ。

いつも背中がくすぐったく感じて、冬の日も背中だけが暖かく感じていた。

窓から風が入って白いカーテンを揺らす。

カーテン越しに透けて見えたのは、海くんの顔がどこか疲れているようだった。

「海くん、寝てないの?」

私は海くんの顔を覗き込んだ。

「大丈夫だよ」

その瞬間

廊下の奥からドタドタと走る音が聞こえる。

「莉乃ー!」

な、なに!?

「ちょっと噂で聞いちゃったんだけど」

ドタドタと大きな音を走ってきたこの子は私の
親友の"唯''

保育園の頃からずっと一緒だった。

噂話が大好きな唯、周りからは少し距離を置かれているけど、唯は気にしない。

「隣のクラスの子、昨日の夜暴走族に襲われそうになったんだって!」

「しかも、莉乃の家の近くだよ!」

「そんな事あったんだ....怖いね」

暴走族は好きじゃない。

いつも鳴り響くバイクの音、こわかった。

考えてると、後ろから私の肩にトントンとされた。

振り向くと、海くんが頬杖をついて私を見つめていた。

「莉乃、戸締りしてる?」

「うん、大丈夫だよ」

「1人で出歩かないでね」

海くんの声は少し低かった

私は海くんの前の席で授業を受けた。

後ろにいる海くんがたまに私の背中を指でなぞってちょっかいをかけてくる。

触れられてる背中が熱くなった。

放課後になって、私は海くんと教室で離れた。

「海くんバイバイ」

「うん、バイバイ」

海くんは急いでるかのように走って教室を出て行った。

もう少しだけ、海くんといたかったな

その直後、急に腹痛に襲われてトイレへ駆け込んだ。

どのくらいトイレに閉じこもっていたかわからなかった。

トイレから出ると、夕焼けに照らされた廊下と外で部活をしている声だけが聞こえた。

せっかくの6ヶ月記念日。海くんと帰りたかったな.....

私はいつもの道をトボトボ1人で帰った。

夕方の少し明るい時間でもひと気がなくて静かな道

''暴走族に襲われそうになったらしいよ''

私は唯の言葉をふと思い出した。

聞こえる音は風で揺れる木の音と私の歩く靴の音。

隣のクラスの子、怖かっただろうな....

その瞬間近くのスピーカーから夕方のチャイムが鳴った。

聞き慣れた音なのに、私は心臓がドクンと跳ねた。 

びっくりした.....
 

急いで帰って靴を脱いで部屋に向かった。

ガチャッーー

「ふぅ....やっと帰り着いた」

そうだ、海くんに電話してみようかな。

記念日くらいは良いよね

私は両手でギュッとスマホを握りしめた。

プルルルルルル

「もしもし?海くん?急に電話してごめんね」

「ごめん莉乃、また後で掛け直す」

プツーー

....海くん、最近冷たい時多いな....

私は涙をグッと堪えた。

それから何をしていたのか自分でもわからない。

とりあえず海くんの事だけで不安だった。

私はスマホを握って海くんにメールをした。

''海くん、会いたい''

私は1時間後も2時間後も海くんの返信を待っていて、スマホを片手に離さなかった。

時計を見上げると20時15分。

「今日の復習でもしようかな」

その瞬間、遠くの方からバイクの音が鳴り響いた。

ヴォンッーーーーー

バイクの音は私の耳をさくような音だった。

あ〜まただ。

この時間いつもうるさいんだよなぁ....

私は両耳にイヤフォンをつけて

教科書とノートを開いて今日の復習をした。

....あれ?

消しゴム...もうこんな小さかったっけ。

買いにいかないと...

バイクの音するけど、まぁ....遠いし...。

私は玄関に向かって靴を履いた。

外で聞こえるバイクの音はやけに近く聞こえて空に向かって鳴り響いているようだった。

うぅ...やっぱ怖いなぁ....

さっきまで少し明るかった道が暗くなって街灯だけが照らされていた。

遠くで聞こえていたバイクの音が段々と大きくなっていく。

ブォン、ブォンーー

心臓が、震えるような重低音に私は背筋を凍らせた。

さっきまで遠くで聞こえてたはずなのに
今はもう、すぐ後ろにいる。

.....最悪だぁ

私は下を向いて隠れるように歩いた。

その時、大きな音を立てたバイクが私の横で止まった。

ブォンンーー

「ねぇ、お姉さん1人?」

低い笑い声が胸に刺さる。

「いや....帰りますので....」

バイクに乗っていた男性がバイクを止めて私に距離を詰めてくる。

私はギュッと鞄を抱きしめた。

「いいじゃん、俺らと遊ぼうよ」

私はその場から逃げようとした時
男性から腕を掴まれた。

「やめてください.....」

そして、私を逃さないかのように数台のバイクが私を囲んだ。

男性の手が私の髪の毛をなぞるように触れる

怖い。

海くん.....助けて。

その時だった。

私の口を塞ぐように後ろから手が被さった。

「おい」

後ろから聞こえるのは聞いた事あるような声と、タバコの匂い。

だれ...?

「海、邪魔すんなよ、良いところだったのに」

え....?海って言った?

私は咄嗟に振り向くと街灯に照らされた顔にごくりを息を呑んだ。

「海....くん?」

「俺の女になにしてんだよ」

男たちの空気が一瞬でシンとなった。

海くん、なの?

こんな所で....何してんの。

「お前もなにしてんの、1人で歩くなって言ったよな」

雰囲気も喋り方も顔つきもいつもの優しい海くんじゃない。

「なにしてんのって、海くんこそ.....なにしてんの....メールも無視して電話もすぐ切って、会えたと思ったらなんでこんな事してんの....?」

海くんは少しの間何も言ってこなかった。

「わりぃ、ちょっと先行ってて」

海くんは、私を囲んだバイクに乗ってる人たちに言って私の手を引っ張った。

「送るから、帰れ」

「嫌だよ。ちゃんと話聞かせてよ」

海くんを説得して無理やり家に連れ込んだ。

「ちゃんと話してよ、海くんの事」

海くんは、気まずそうに私に全部を話してくれた。

静かな部屋に私の背中をぞくぞくさせて
唾をごくりと呑んだ。

「かいくんが、暴走族の総長!?」

「あぁ、わりぃ」

「何で、半年間も黙ってたの.....?今日帰れなかったのもこれがあったから?電話を切ったのも全部....」

海くんは私の距離を詰めた。

「お前、友達と好きなタイプは真面目な人って話してだろ?だからバレたくなかったんだよ」

意味がわかんない。

私はどんな海くんでも受け止めたいと思ってた。

海くんの事知ってるの私だけと思ってた自分が恥ずかしいよ。

私は下を俯いて涙を流した

「今の海くん見た目は怖いけど....会えて嬉しかった、助けてくれた時、嫌われてないんだって....暴走族は怖いから嫌いなの...でも海くんだったら受け止めるよ。大好きだから....」

その時、海くんは私を抱きしめた。

フワッと香るタバコの匂い。

いつもの海くんの匂いだーー

「悪かった」
私の耳で囁く海くんは切なそうな声だった。


「莉乃、学校では黙っててくれねーか、知られたくねぇから」

海くんの少し悪い言い方に、私はドキッとした。


「う、うん」

「ありがとう」
海くんは私の扉の前に立って帰ろうとした。

「待って」
私は海くんの服の袖を引っ張った。

「もう少し....いてください」

私は海くんの顔に視線を向けると耳まで真っ赤になっていた。

「....やば、可愛すぎる」

海くんは扉にもたれるようにしゃがみ込み、片手でぐしゃっと髪を掻き乱した。

小さな部屋に海くんのタバコの匂いが広がる。

海くんはしゃがんだまま私を見つめた。

その瞬間、腕を引っ張られて海くんの顔が近くなった。

「え?」

海くんの唇が私の唇に重なった

ドクンドクンと心臓が早く音を鳴らした。

唇が離れて、海くんの手が私の頬に触れる

「アホか....煽んな」

海くんの顔はまだ赤くて私から視線を逸らした。

人生で初めてのキス....しかも海くん。

初めてのキスの味はレモン味って聞いた事がある。

海くんは少し苦いタバコの味だった。

不真面目な海くん

真面目な海くんより私をドキドキさせる。

でも......

慣れてる?

「男を簡単に家に上がらせるな、俺だけにしとけ」

その瞬間、海くんのスマホが震えた。

海くんはチッと舌打ちをして電話に出る。

「あぁ、わりぃ、今日は俺やめとく」

「彼女といてぇーから」

ちょっと悪い海くんは私の想像を超えてくる。

最悪な記念日だった。

でも、最高の記念日になった瞬間だった。