数日後。
放課後、急いで帰宅した。
最近すごく疲れるから。
玄関を開けると、
パパの靴があった。
早い。
まだ4時前なのに。
嫌な予感、
静かすぎる。
「……ただいま」
返事がない。
リビングを見る。
パパが座っていた。
背中が丸い。
机の上には、缶コーヒー。
そして、名刺。
警察のマスコットキャラクターの
イラストがついている。
警察?
心臓が、どくんと鳴る。
「ミミ」
パパが顔を上げた。
笑ってる。
……でも。
笑ってない。
「ちょっと話そうか」
胸がざわついた。
***
「昼間に会社に連絡があったので、
急いで帰宅した。
家に、警察官が来た。
事故のことを聞かれた。
コンビニの防犯カメラに
帽子の男が映っていたそうだ。
事情を聞きたいと言われた」
わたしはドキドキがとまらない。
パパにばれてしまったのかな。
葉月先生とコンビニに行って動画を観たこと。
「刑事に聞かれたよ。
『事故当日、現場近くにいませんでしたか?』って。
パパは言ったよ。
『行っていません』
『私ではありません』
ってね」
刑事は資料を見せてくれたんだ。
『そして、お嬢さんが心配しています』って言われたよ。
沈黙。
パパの顔が、ほんの少し動いた。
「ミミ、何か調べているのか?」
長い沈黙。
そして、
パパは笑った。
刑事さんに言っておいたよ。
『……娘は、少し不安定なんです。
母親を亡くしているので』って。
パパがわたしの頭を撫でた。
静かな声。
怒ってない。
でも。
怖い。
「そうそう、刑事さんが言っていたぞ。
ミミは最近、
変なこと調べてるんだって?」
息が止まる。
「コンビニまで行ったんだって?」
優しい声。
笑ってる。
なのに。
逃げたくなる。
「……ごめんなさい」
パパが、ため息をつく。
怒鳴らない。
それが余計に怖い。
「ミミ」
優しい声。
本当に優しい。
「もう忘れろ」
え。
「事故のこと、
終わった話だ」
低い声。
「これ以上掘り返しても、誰も幸せにならない。
ミミの好きな葉月先生もな」
胸がざわざわする。
「なんで葉月先生の名前が出るの?」
「ミミ」
遮られる。
静か。
でも、強い。
「信じろ」
目が合う。
逃げられない。
「パパは、お前を守ってる」
その言葉。
前なら安心した。
でも。
今は。
少し怖い。
***
それから。
パパは変わった。
……少しずつ。
ゆっくり。
分からないくらいに。
「どこ行くの?」
「誰と話してた?」
「葉月先生と何話した?」
優しい声。
笑顔。
「ミミが心配だから」
パパはそう言う。
「ミミは騙されやすいから」
「悪い大人もいる」
「人を信じすぎるな」
胸が冷たくなる。
前にも聞いた。
似てる。
誰だっけ。
あ。
ママだ。
***
ある日。
葉月先生からメッセージ。
「元気? 無理してない?」
その瞬間。
背後から声。
「誰からのメッセージ?」
びくっ。
パパ。
笑ってる。
でも。
目が笑ってない。
「……葉月先生だよ」
沈黙。
数秒。
パパが言った。
静かな声。
優しい声。
「もう会うな」
え。
「前の学校の人間とは関わるな」
少し笑う。
でも。
怖い。
「ミミ」
肩に手が置かれる。
逃げたい。
でも逃げられない。
「ママみたいになるぞ」
世界が止まった。
ママみたいって……死ぬってこと?
その言葉。
一番怖い。
パパは、やさしく頭を撫でた。
「忘れよう」
笑う。
「新しい人生なんだから」
優しい。
すごく優しい。
なのに。
息が苦しい。
なんでだろう。
ママといた時みたいに。
胸がぎゅっとする。
その夜。
わたしは布団の中で思った。
──もしかして。
地獄って。
形を変えるだけなのかな。
【日記】11月✖日 くもり
最近。
パパが少し怖い。
怒らない。
優しい。
でも。
だからこそ。
何が本当か分からない。



