その夜。
眠れなかった。
何度も。
何度も。
ママの日記を読み返した。
最後のページ。
震えた文字。
『最近、怖い』
『あの人に殺されるかもしれない』
閉じても。
頭から離れない。
パパの顔が浮かぶ。
笑ってる顔。
優しい顔。
回転寿司で笑ってた顔。
でも、
深夜の電話。
保険金。
運転手。
封筒。
そして。
「……あんたの依頼でな」
胸がざわつく。
違う。
そんなわけない。
……でも。
もし。
本当だったら?
ミミは、布団をぎゅっと握った。
そして。
思い出す。
事故現場。
あの道路。
調整池の近く。
確か。
コンビニがあった。
ニュースで見た。
防犯カメラ。
もしかして。
何か映ってる?
心臓が跳ねた。
でも。
どうやって?
子どもになにができるっていうの?
その時、思い出した。
机の引き出しにある
葉月先生の手紙。
そこに書いてある言葉。
「困ったら連絡して」
長い間、悩んだ。
怖い。
だって、葉月先生を困らせたのはわたし。
仕事を辞めた原因はわたし。
恨まれているはず。
でも、
もう、ひとりじゃ無理。
震える手で、メッセージを送る。
「先生。相談があります」
返信は早かった。
何があった?
先生、優しい。
こんな優しい人を困らせたなんて……
涙が少し出た。
***
数日後、
放課後。
葉月先生と会った。
駅前のカフェ。
少し久しぶり。
でも、
先生の顔を見た瞬間。
なんだか安心して。
泣きそうになった。
わたしはパパの言いつけを破って、全部話した。
運転手。
封筒。
保険金。
ママの日記。
パパのこと。
先生は黙って聞いていた。
最後まで。
一回も否定しなかった。
一回も怒らなかった。
そして。
静かに言った。
「……それ、本当に危ないかもしれない」
え。
先生の顔が真剣だった。
「事故現場、カメラあったよね」
胸がどくんと鳴る。
「確認してみよう」
***
事故現場近くの小さなコンビニ。
店長さんは困った顔だった。
「普通は見せないんだけど……」
葉月先生が頭を下げる。
「お願いします」
しばらく迷って。
店長さんは言った。
「少しだけなら」
古いパソコン。
防犯映像。
事故の日。
時間を巻き戻す。
心臓がうるさい。
どくん。
どくん。
どくん。
そして。
映った。
「……ママ」
事故の少し前。
ママが道路脇に立っている。
スマホを見ている。
落ち着かない様子。
その時、
誰かが近づいた。
男?
帽子。
黒っぽい服。
何か話している。
音はない。
でも、
揉めてる。
ママが腕を振り払う。
男が近づく。
何か言ってる。
ママが怒鳴る。
分からない。
でも、
怒ってる。
その瞬間。
ママがよろけた。
車が突っ込む。
急ブレーキ。
ライト。
画面が揺れる。
事故。
わたしの息が止まる。
「待って……」
手が震える。
ママ。
自分で飛び出したんじゃない。
事故じゃない?
それとも。
男が押した?
先生が映像を止めた。
男の後ろ姿。
帽子。
肩幅。
立ち方。
歩き方。
……見覚えがある。
嫌な予感。
そんなわけない。
でも。
似てる。
すごく似てる。
ミミの喉が乾く。
小さな声が漏れた。
「……パパ?」
葉月先生が黙る。
長い沈黙。
でも。
先生は首を振った。
「まだ分からない」
真っ直ぐに言った。
「ミミさん、決めつけちゃダメ」
「でも」
先生の顔が固くなる。
「これは……ちゃんと調べた方がいい」
ミミの足が震えた。
もし。
本当に。
パパだったら?
私は。
誰を信じたらいいの?
帰り道。
葉月先生が、そっと言った。
「ミミさん」
「……うん」
「何があっても」
少し笑った。
「先生は、味方だから
ミミさんも私の味方でいて」
その瞬間、
わたしは、
少しだけ。
泣いた。
不思議なことに、先生も泣いていた。
そして、「信じられない」とつぶやいたのを
確かに
聞いた。
【日記】10月✖日 雨
ママは。
自分で死んだんじゃないかもしれない。
でも。
お願い。
パパじゃありませんように。



