敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記



その夜。

眠れなかった。

何度も。

何度も。

ママの日記を読み返した。

最後のページ。

震えた文字。

『最近、怖い』

『あの人に殺されるかもしれない』




閉じても。

頭から離れない。

パパの顔が浮かぶ。

笑ってる顔。

優しい顔。

回転寿司で笑ってた顔。

でも、

深夜の電話。

保険金。

運転手。

封筒。

そして。

「……あんたの依頼でな」

胸がざわつく。

違う。

そんなわけない。

……でも。

もし。

本当だったら?

ミミは、布団をぎゅっと握った。

そして。

思い出す。

事故現場。

あの道路。

調整池の近く。


確か。

コンビニがあった。

ニュースで見た。

防犯カメラ。

もしかして。

何か映ってる?

心臓が跳ねた。

でも。

どうやって?

子どもになにができるっていうの?





その時、思い出した。

机の引き出しにある

葉月先生の手紙。

そこに書いてある言葉。

「困ったら連絡して」




長い間、悩んだ。

怖い。

だって、葉月先生を困らせたのはわたし。

仕事を辞めた原因はわたし。

恨まれているはず。



でも、

もう、ひとりじゃ無理。

震える手で、メッセージを送る。


「先生。相談があります」



返信は早かった。



何があった?

先生、優しい。

こんな優しい人を困らせたなんて……

涙が少し出た。

***

数日後、

放課後。

葉月先生と会った。

駅前のカフェ。

少し久しぶり。

でも、

先生の顔を見た瞬間。

なんだか安心して。

泣きそうになった。

わたしはパパの言いつけを破って、全部話した。

運転手。

封筒。

保険金。

ママの日記。

パパのこと。

先生は黙って聞いていた。

最後まで。

一回も否定しなかった。

一回も怒らなかった。

そして。

静かに言った。

「……それ、本当に危ないかもしれない」

え。

先生の顔が真剣だった。

「事故現場、カメラあったよね」

胸がどくんと鳴る。

「確認してみよう」

***

事故現場近くの小さなコンビニ。

店長さんは困った顔だった。

「普通は見せないんだけど……」

葉月先生が頭を下げる。

「お願いします」

しばらく迷って。

店長さんは言った。

「少しだけなら」

古いパソコン。

防犯映像。

事故の日。

時間を巻き戻す。

心臓がうるさい。

どくん。

どくん。

どくん。

そして。

映った。

「……ママ」

事故の少し前。

ママが道路脇に立っている。

スマホを見ている。

落ち着かない様子。

その時、

誰かが近づいた。

男?

帽子。


黒っぽい服。

何か話している。

音はない。

でも、

揉めてる。

ママが腕を振り払う。

男が近づく。

何か言ってる。

ママが怒鳴る。

分からない。

でも、

怒ってる。

その瞬間。

ママがよろけた。

車が突っ込む。

急ブレーキ。

ライト。

画面が揺れる。

事故。

わたしの息が止まる。

「待って……」

手が震える。

ママ。

自分で飛び出したんじゃない。

事故じゃない?

それとも。

男が押した?

先生が映像を止めた。

男の後ろ姿。

帽子。

肩幅。

立ち方。

歩き方。

……見覚えがある。

嫌な予感。

そんなわけない。

でも。

似てる。

すごく似てる。

ミミの喉が乾く。

小さな声が漏れた。

「……パパ?」

葉月先生が黙る。

長い沈黙。

でも。

先生は首を振った。

「まだ分からない」

真っ直ぐに言った。

「ミミさん、決めつけちゃダメ」


「でも」

先生の顔が固くなる。

「これは……ちゃんと調べた方がいい」

ミミの足が震えた。

もし。

本当に。

パパだったら?

私は。

誰を信じたらいいの?

帰り道。

葉月先生が、そっと言った。

「ミミさん」

「……うん」

「何があっても」

少し笑った。

「先生は、味方だから

ミミさんも私の味方でいて」

その瞬間、

わたしは、

少しだけ。

泣いた。

不思議なことに、先生も泣いていた。

そして、「信じられない」とつぶやいたのを

確かに

聞いた。




【日記】10月✖日 雨

ママは。

自分で死んだんじゃないかもしれない。

でも。

お願い。

パパじゃありませんように。