敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記


新しい学校、

最初は、がんばろうと思った。

今度こそ、

失敗しないように、

普通の子になる。

友達をつくる。

ちゃんと笑う。

そう決めていた。

でも。

うまくいかなかった。

「ミミさん、ねえ前の学校、なんで転校したの?」

聞かれる。

笑ってごまかす。

「ちょっといろいろあって」

すると、

空気が止まる。

深く聞かれない。

そして、

なんとなく距離ができる。

給食。

休み時間。

帰り道。

みんなには、すでにグループがある。

わたしにはない。

ひとり。

また、ひとり。

……慣れてるはずなのに。

やっぱり寂しかった。



***

そんなある日。

パパが言った。

夕飯のあと。

テレビを見ながら。

何気ない顔で。

「ミミ」

「ん?」

「これまでのことは、誰にも話すな」

心臓が止まりそうになった。

「……え?」

パパは静かだった。

怒ってない。

でも、

なんだか怖い。

「前の学校のこと」

少し間。

「ママのことも」

テレビの光が、顔を照らす。

「人は、そんなに信用しちゃダメだ」

胸がざわっとした。

「いい人そうに見えても、裏切る」

低い声。

「人を信じるな」

怖い。

その言葉、

なんだか、

ママみたい。

でも、

違う。

怒鳴らない。

優しい声。

だから余計に怖かった。

「……うん、わかった」

そう答えるしかなかった。



***

誰にも言えない。

友達もいない。

先生も怖い。

パパにも聞けない。

だから、

胸の中だけ、どんどん苦しくなる。

夜、

こっそり泣いた。

声を殺して。

枕がぬれた。

逃げたい。

でも、

どこへ?

頼れる人なんて、

もういない。

***

そんな時だった。

学校から帰ると、

ポストに、一通の封筒。

知らない字。

でも、

名前を見て。

息が止まった。

葉月音羽

先生だ。

葉月先生だ。

え。

なんで?

わたしが嘘ついて、先生は辞めるほど苦しんで、

叱られるのかな。

当然だよね。



震える手で開ける。

便せんが一枚。

少し丸い字。

なつかしい字。

***

ミミさんへ

元気ですか。

先生は、少し元気になりました。

正直に言うと。

あなたの嘘で、すごく苦しかったです。

先生を信じてもらえなかったこと。

怖かったし、悲しかったです。

教師を辞めようと思ったくらいです。

でも、今なら少し分かります。

ミミさん、

あなた、本当は

「助けて」って言いたかったんだよね。

でも、言えなかった。

苦しかったね。

怖かったね。

大人なのに、気づけなくてごめん。

先生、失格だったね。

でもね、ミミさん。

あなたは悪い子じゃない。

ちゃんと、頑張ってた。

だから、もし今、困っているなら。

ひとりで抱えないで。

先生で良ければ、話を聞きます。

何があっても。

責めたりしません。

困ったら連絡してください。

電話番号を書いておきます。

先生は、味方です。



涙が、ぽたっと落ちた。

止まらなかった。

どうして、

怒らないの?

嫌いにならないの?

わたし、嘘ついたのに。

便せんをぎゅっと握る。

胸の奥が。

あったかい。

久しぶりだった。

誰かが。

自分の気持ちを分かろうとしてくれたの。

その時、

はっとした。

玄関の音。

パパが帰ってきた。

慌てて手紙を隠す。

……言えない。

パパに。

絶対、言えない。

でも、

初めて思った。

もしかしたら。

まだ、味方はいるのかもしれない。

【日記】10月13日 雨

今日、

久しぶりに泣いた。

悲しくてじゃない。

少しだけ、

安心して泣いた。