敵はママ!? 十歳ミミのサバイバル日記


──嘘だよね。

おふとんの中。

真っ暗な天井を見つめる。

眠れない。

頭の中で、ぐるぐるする。

あの言葉。






「……あんたの希望通りにな」

耳から離れない。

違う。

きっと脅してるだけ。

お金を取ろうとしてるだけ。

だって。

パパは優しい。

ミミを助けてくれた。

抱きしめてくれた。

回転寿司だって連れて行ってくれた。

なのに。

胸がざわざわする。

眠れない。

時計を見る。

午前二時。

リビングが、まだ明るかった。



***

次の日。

朝ごはん。

焦げたトースト。

スクランブルエッグ。

パパは、いつも通りだった。

「転校した学校、もう慣れたか?」

「うん。だいぶね」

「友だちできたか?」

「それは、まだかな」

パパが笑ってる。

優しい。


……昨日のことなんて、なかったみたい。

勇気を出して聞いてみた。

「あの人……誰?」

パパの手が、一瞬止まった。

ほんの少し。

でも。

止まった。

「……ママの事故の……運転手さんだよ」



少しかたい表情。

「なんで来たの?」

沈黙。

「示談の相談」

短い。

それだけ。

「ミミ、もう気にしなくていい」

そう言って。

無理やり話を終わらせた。

胸が、ざわっとした。

──嘘。

なんとなく分かった。

パパ、嘘ついてる。



***

それから。

違和感が増えた。

夜、

また電話。

低い声、

怒ってる。

「だから今は無理だって言ってるだろ」

沈黙。

「もう払っただろ」

払った?

何を?

誰に?

わたしに聞こえないように。

ドアを閉めて小声で話している。

そういうことが、前より増えた。



***

ある日。

洗濯物をたたんでいた時だった。

机の上に、

茶色い封筒。

少しだけ開いている。

中が見えた。

一万円札だ。



封筒の裏に、「500000」

え。

いち、じゅう、ひゃく、せん、まん

50万円だ。

心臓が跳ねた。

こんな大金。

見たことない。

パパ、うちにそんなにお金あったっけ?



その時。

後ろから声。

「ミミ」

びくっ!!

振り返る。

パパ。

笑ってる。

でも。

なんだか怖い。

「人のもの、勝手に見ちゃダメだぞ」

優しい声。

なのに。

なぜか、怖かった。



***

違和感は、まだあった。

事故の日のこと、怪しい。

何気なく聞いた。

「ねえ、パパ」

カレーを食べながら。

「事故の日って、お仕事だった?」

パパのスプーンが止まる。

「……なんで?」

低い声。

怖い。

「えっと……なんとなく」

沈黙。

長い沈黙。

それから。

「仕事だよ」

笑う。

でも。

目が笑ってない。

「どうして?」

「ううん……」

聞かなきゃよかった。

空気が重くなる。

だって、あの日、わたしが家に帰って来た時、

パパが家にいた。仕事にも行かずに

オンライン会議の時はノートパソコンを壁に向けて開いているのに、

あの時は、棚の上に置きっぱなしだった。

使っていない証拠。

その夜、

わたしは思った。

──パパ、何か隠してる。

***

さらに数日後。

リビング。

パパが電話していた。

少し開いたドア。

聞こえてしまった。

「保険金が入ったら……」

息が止まる。

保険金?

ママの?

「だから、待ってくれ」

低い声。

疲れた声。

「……約束しただろ」

胸が冷たくなる。

何の約束?

誰と?

怖い。

怖い。

でも。

知りたい。

知らないと。

また。

地獄になる気がした。

その夜。

わたしは決めた。

──調べよう。

パパのこと。

本当のこと。

もし、

本当に、

パパがママのことを──?。

そこまで考えて、

ぶんぶん首を振った。

違う。

そんなわけない。

だって、

パパは、

世界でたったひとりの味方だから。

……だよね?