夜風にさらわれたお姫様


「こっち!」

煌夜に手を引かれ、榴愛は人気の少ない通路へ駆け込んだ。

背後から足音が響く。


黒崎組――。


その名前を聞いただけで心臓が縮み上がりそうだった。

「はぁ……っ、はぁ……っ」

息が苦しい。

けれど煌夜は榴愛の手を離さない。

その大きな手だけが、今の榴愛にとって唯一の安心だった。


角を曲がった瞬間。

煌夜が榴愛を壁際へ引き寄せる。

「きゃっ……!」

トン。

榴愛の背中が壁についた。


その直後、煌夜の腕が榴愛の横へ置かれる。

完全に囲まれた。

近い。

近すぎる。

「こ、煌夜さん……」

「静かに」

低い声。

真剣な目。

榴愛は思わず息を呑んだ。


足音が近付いてくる。

「どこ行った!?」

「まだこの辺いるぞ!」

男たちの声。

榴愛は震えそうになる。


すると。

煌夜の手がそっと榴愛の頭を撫でた。

「大丈夫」

小さな声。

その一言だけで、不思議と恐怖が少し和らぐ。

煌夜は榴愛を隠すように身体を寄せた。

近い。

胸板。
香水の匂い。
低い体温。

全部が近すぎて、別の意味で心臓が危ない。

「……っ」

榴愛が顔を赤くすると、煌夜が目を細めた。

「顔真っ赤」

「だ、だって近いです……!」

「今それ言う?」

「うぅ……」

男たちの足音が遠ざかっていく。