夜風にさらわれたお姫様


その時。


「榴愛ちゃん、これ食べる?」

優しい声と共に出されたのは焼き鮭だった。

「え、あ……ありがとうございます」

「燈香(ともか)さん料理上手なんだよ」

心桜が言う。

キッチンから現れた女性が柔らかく笑った。

「たくさん食べてね」

この人が煌夜のお母さん……。

思っていたよりずっと優しそうだった。


朝食が始まる。

組員たちが賑やかに話している。

「蒼空(そら)、お前うるさい」

「えー!? 燐斗(りんと)さん静かすぎるんすよ!」

「駿さん味噌汁おかわり!」

「自分でよそえ」

普通だ。

普通の家族みたい。

榴愛は少しだけ安心した。


すると。

「榴愛」

「はい?」

煌夜がこちらを見る。

「今日からしばらくここにいろ」

「……え」

「黒崎組がお前の顔知った」

空気が少しだけ張り詰めた。

「今一人にするのは危険」

「でも……」

「帰りたいか?」

そう聞かれて、榴愛は言葉に詰まる。

帰りたい。

……はずなのに。

昨夜の恐怖を思い出すと、一人になるのが怖かった。

煌夜はそんな榴愛を見て目を細める。

「無理にとは言わねぇ」

「……」

「でも守れる場所にいろ」

優しい声だった。