まさか見られてるとは思ってなかった。
それから羞恥心を覆い隠すようにスクールバッグを手に月城と教室を後にした。もちろんその手前で梨々花と美波にバイバイすることも忘れずに。
「ほんとありがとう。じゃ、また明日」
階段を降りるとき、振り向きざまにそう告げると、月城の口角が微かに持ち上げられた。
「うん、頑張って。――――ラ」
最後の方の言葉は上手く聞き取れなかったけど、わざわざ聞き返すことでもないよねと思い、もう一度「またね」とだけ言って背を向けた。
★
家に帰りすぐに自室に引きこもった。
流れるように録音の準備を整え、ヘッドフォンに手で押さえる。こうするとより音に集中できる気がするのだ。
さて、どれから歌おうか。
テスト期間中、さまざまな質の音たちが頭の中に浮かんでは消え、いつの間にか心を覆い尽くすほど溜まっていた。
最有力は高校生の甘酸っぱい恋愛を春から夏にかけ変わりゆく空模様とかけたものかな。あぁ、夜の東京のひかりに照らされてできた影に吸い込まれて不思議な世界に迷い込む非日常感あふれるものもいい。
アイディアならたくさんある。
でもどれも決定打に欠ける。
手を伸ばせば届きそうなのに掴めなくて。じっと見つめれば見つめるほどあやふやで。少し時間が空いただけで、ワンコーラス分すら形にできるか不安になる。



