昔のことを思い出した後、
デスクの上に飾っていた試作品のグッズが目に入った。
それは、黒猫デザインのナギ。
そもそも、普段の“ナギ”のイメージなら、
白猫か、王子様コスが自然だった。
けれど、私はあえて“黒猫”にした。
その理由は、“凪”のイメージに一番近かったから。
だから表情も、イラストレーターさんへ事細かに伝えた。
クールにも、穏やかにも見える表情でって。
実況中のナギにも、いつもの素の凪にも見えるように。
私にとっては、どっちも凪だから。
「……あ」
――その時、気づいた。
そもそも私は――どんな凪でも大好きなんだって。
思ったことをすぐ口に出してしまう凪も。
そのせいで、相手を傷つけることを怖がる凪も。
家族想いで、優しい凪も。
自分が嫌いで、別人を演じる凪も。
私は――そんな不器用な凪が大好きだって、気づいてしまった。
それなら、その気持ちごとみんなに伝えればいいんじゃないか。
そう思った瞬間、自分の心の中にかかっていた靄が晴れていく感覚がした。
居ても立っても居られなくて、私はパソコンを起動させた。
そして、SNSに文字を打つ。
「今から、フウ単独配信します!!」
突飛すぎる行動だと思ったけど、
もう指はポストボタンを押していた。
続けて凪へメッセージを送る。
「今からひとり配信するから、ぜっっったい見ること!!!」
既読を確認する前に閉じた。
きっと見てくれるってなぜか確信していたから。
正直、これで凪の傷が癒えるなんて思ってない。
けど、今私に出来ることはこれしかないって思った。
そして、私は、起動させたパソコンの前に座り、ヘッドフォンを耳にかけ、配信アプリを開いた。
コメント欄は、あえて解放した。
リスナーの言葉を目を逸らさずに見たいと思って。
けれど、マウスを持つ手は震えてた。
正直――こわい。
だって、いつもは凪がそばにいてくれたから。
ひとりで配信なんてしたことない。
だから、自分に言い聞かせた。
ここでは、他人の視線も、声も、
自分からは見えない聞こえない。
大丈夫、大丈夫――。
そう自分を落ち着かせる。
そして――
ひとつ深呼吸をしたあと、私は配信開始ボタンをクリックした。
突然の配信にも関わらず、視聴者は通常の2倍見にきてくれていた。
多分、炎上したせいで一時的に私たちのチャンネルが拡散されたからだろう。
《フウちゃん何言うんだろ》
《まさか、解散!?》
《ナギは隠れたままか》
色々なコメントが流れる。
心臓がギュウってするのもある。
けど、それでもちゃんと伝えるんだ。
私は、軽く息を吸ったあとマイクへ声をのせた。


