そう気が付くと、私はずっとポケットに入れていた煙草を取り出した。
買ったばかりの新しい煙草。
フィルムに包まれているから、雨にだって負けない。
「どうぞ」
「なんでお前が持ってるの」
銘柄はユキが吸っているもの。
そりゃそうだ、ユキのために買ったんだから。
「いつもユキさん、AnBarで煙草のお使いを頼むから」
ストックを置いておこうと、恵西で買った。
食品と一緒の袋に入れるのは気が引けたから、ポケットに入れてたんだ。
ユキは心なしか嬉しそうに口端を上げると、煙草の封を開けていく。
「わたし、話します」
「何を?」
「次に街で彼と会ったら、ちゃんと話し合ってみます」
「殴られたんだろ?話が通じる相手じゃないんじゃないの」
「今日はそうでしたけど、伝え方がよくなかったのかもしれません」
いい加減、向き合ってみよう。
彼と。
そして逃げてばかりいた自分と。
上手くいくかなんてわからない。
また惨めな思いをするかもしれないし、格好悪く傷つくだけかもしれない。
それでも、怯えて逃げ出したままの自分でいるよりは、ずっといい。
するとユキは「やっぱり意味わかんないよね」と呆れたように呟き、真新しい煙草を唇に咥えた。
カチリ、とライターの音が狭い廊下に響く。
一口深く吸い込んでから、
「お前は生きるのが下手だね」
天井に向かって、白く煙るそれを、静かに吐き出した。

