ユキはさっき脱ぎ捨てたジャケットから煙草を取り出した。
けれど、雨に濡れて吸えないことに気が付くと「ふん」と鼻を鳴らす。
そして、目を伏せたまま静かに話しだした。
「それで?お前はこれからどうしたいの?」
そんなの、わからない。
どうすれば彼から逃げ切れるのか。
手段がわかったら苦労しない。
「何がそんなに怖いの?」
「………」
怖いのは――…彼そのものじゃない。
変わってしまった彼を見ることが、怖い。
あんなに優しかったのに、いつからだっけ。
憎くて憎くて溜まらないって顔をするようになった。
殴られる度、まるで『こうなったのはお前のせい』って責められているようだった。
「――お前は、どうなりたいの?」
どうしたい、どうなりたい。
ほとんど同じ問いのはずなのに、不思議。
頭に浮かぶ景色はまったく違った。
どうしたい、と聞かれれば「彼から逃げたい」だった。
でも、そんな風に怯えて逃げ回る自分が、ずっと嫌だった。
ずっと誰かの顔色を窺って、誰かの求める私になろうと一生懸命で、自分の足で立つことから逃げていた。
――ああ、そうか。
私は彼から逃げたいんじゃない。
私はずっと、自由になりたかったんだ。
誰かの好みの私じゃなくて。
私の、私のための人生を、生きたかったんだ。

