「元カレです」
「元カレ?」
想定外だったらしい。珍しくユキの眉がピクリと動いた。
「元カレって、お前をシトウに置き去りにしたっていう?」
「そうです。もうとっくに地元に帰ってると思ってたんですけど」
ユキは「なんだ」と呟いた。
まるで『そんなことだったのか』と言いたげな、拍子抜けした温度で。
たしかに、ユキには関係のない話だ。
シトウの街の誰かとのモメ事じゃない。
これは彼と私の、ただの痴話喧嘩。
「ヨリを戻すの?」
「戻さないですよ」
「じゃあどうするの?」
どうする。
一度この街で顔を合わせてしまった。
彼が私に執着しているなら、また遭遇するかもしれない。
「逃げれば」
「え?」
「お前がシトウに来たのは男から逃げるためでしょ。でも見つかった。だったらまたどこか知らない街に逃げればいいんじゃない?」
会いたくないのなら、どこまでも逃げればいい。
そう。
それはぐうの音も出ないほど、合理的で正しい考え。
それでも。
ユキに『お前はここに要らない』と突き放されたような気がして、胸の奥がズキリと痛んだ。
いっそ、この息苦しい話を変えてしまいたかった。
「珍しいですね」
「何が?」
「ユキさん、こういう話興味ないと思ってました」

