「っ痛……」
ゆっくりと迫る拳が、私の額を押す。
縫合したばかりの傷口にキリキリと痛みが走った。
――『アイツのことは” シド ”と呼べ』
二度目だ。
この不思議な瞳は私の脳みそを弄って、思考という思考を取り上げてくるから嫌だ。
「怜を止めろ」
止めるって、何を?
「行け」
多夜の視線の方向に目をやるのと同時に、私の身体は動く。
途端、動き始める時間。
耳に流れ込んでくる、野外の音。
飲食店の通気口の音と、コンビニの開閉音、走る自分の足音。
五感が一気に解放されて。
やがて、人だかりを見つけた。

