君と歌姫はじめました!

鼻歌が止まると分かる。

逆に歌い始めると、呼吸が少し緩む。

本人は気付いていないだろうけど。

「なんか有栖って、鳥っぽいよね」

「どこが!?」

「自由なとことか」

インコやウグイスを連想して言ったのだが、

お気に召さなかったらしい。

「えー、嬉しいような嬉しくないような……」

唇を尖らせながらも、有栖はまた鼻歌を始める。 

今度は少しだけ切ない旋律だった。

夕暮れに溶けていくみたいな音。

零はページをめくる手を止めた。

無意識だった。

——ああ、もったいない。

いつも思う。

この声を、こんな狭い部屋だけに閉じ込めておくのは。

この歌を、誰も聞いたことがないなんて。

有栖は自分の才能を知らない。

いや、『才能』として考えたことすらないのだろう。

好きだから歌っているだけ。

楽しいから言葉を紡ぐだけ。

でも、零には分かる。

この声には、人を救う力があると。