『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる





 華やかな式を終え、夜も更けた頃。
 新婚の二人は、整えられた寝室で向かい合っていた。

 思えば、同じ屋敷で暮らしてきたとはいえ、紳士を貫くジスランは私の許可なく指一本触れてきたことがない。例外は、レオポルドが押し入ってきたあの日、私を抱きしめたときだけだ。


 緊張のあまり、耳元で心臓の音がうるさく鳴り響いている。
 ジスランはそんな私を気遣い、温かな液体の入ったマグカップを差し出した。

「今日は一日忙しかっただろう? 主役の君は、食事もままならなかったはずだ」

 促されるまま受け取ると、シナモンの甘い香りが鼻を(くすぐ)る。
 ジスランを信頼しきっていた私は、緊張を紛らわせるように躊躇(ためら)いなくそれを喉に流し込んだ。

「――少しは、緊張が解れたかな。特製のホットワインだよ」
「……え、今、なんて?」
「ホットワイン、だけど……? ウォルジー家名産の葡萄酒に、スパイスを入れて温めた……」

 久しぶりの酒精が、一気に身体の芯を熱くさせ、ふわりと思考の輪郭が失われていく。


 目の前には最愛の男性。
 今から何をするんだっけ?

 ……そうだ、私は彼と「夫婦」になったのだ。


 私はサイドテーブルにカツンと音を立ててマグを置くと、驚くジスランを逃がさぬようベッドへと押し倒した。

「そ、ソフィー……!?」

 私はジスランの上に跨り、不敵な笑みを浮かべて彼を見下ろす。
 ぺろりと舌で唇を湿らせると、彼は見たこともないほど顔を朱に染め、息を呑んでびくりと身体を震わせた。




 ――さて。
 その後、二人がどうなったのか。

 それを知るのは、翌朝、これ以上ないほど幸せそうに微笑むジスランと、顔を真っ赤にして布団に潜り込むソフィーだけの秘密である。




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ここで完結です!
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