『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる




 満身創痍のジスランが、瞳を爛々と輝かせて進み出る。

「ソフィー、実に見事な戦いぶりだ。ああ、やはり貴女は素晴らしい」
 陶酔したように語りかけてくるジスラン。


 だが、彼は見逃さなかった。

 魔法という絶対的な力を一時的に奪われ、初めて抗えぬ暴力に晒された私の指先が、今なお微かに震えているのを。



 私は、背後から迫る「別の恐怖」に身を硬くした。

 彼は「強い私」に惹かれたのだ。
 だとしたら、普通の令嬢のように震える無様な姿を晒せば、その期待を裏切ることにならないだろうか。

 差し伸べられた彼の手を、どうしても掴めない。
 触れられた瞬間、我慢していた何かが決壊し、泣き崩れてしまいそうだったから。

 幻滅を恐れ、逃げるように視線を泳がせる。


 ジスランはゆったりと私の前に立つと、その強張った手を逃さず、大きな掌で優しく包み込んだ。
 凍てつく指先に、彼の熱がじわりと溶け込んでいく。

 恐る恐る顔を上げれば、そこには灰色の瞳を細め、慈しむようにこちらを見つめる彼の姿があった。


「俺が、貴女を守れて嬉しい」

 蕩けるような甘い声。


 ――だが、私に注がれていた熱が、レオポルドを射抜いた瞬間に凍りついた。
 王族としての威厳に満ちた、頼もしい支配者の眼差しへと豹変する。

「肉体的な制裁は今、貴女が済ませた。ならば、法的な、そして社会的な抹殺は、ぜひ私に任せてくれないか? 徹底的に、二度と日の光を拝めぬよう、我が名にかけてやり遂げよう」

 そう言って彼は、私の震える肩に、ふわりと自らの騎士服をかけた。その横顔には、私への確かな親愛と、敵を一切容赦しない冷徹な断罪者の貌が同居している。


「だから今回は、俺に甘えて?」

 ジスランは私の耳元を掠めるように顔を寄せ、甘い不穏な余韻を残して微笑む。そして、私の恐れを丸ごと包み込むように、力強く、それでいて壊れ物を扱うような手つきで優しく抱きしめた。

 わずかに血の匂いが混じる、けれどひどく温かな彼の腕の中で。
 私は小さくひとつ頷いて、その広い胸に顔を埋めた。