『お姉ちゃんだから』と我慢し続けてきた令嬢、ついにブチ切れる




「まあ、私もいい加減、婚約者を決めないといけないのは事実なのよね。第二王子はともかく、お相手探しの場としては、ちょうどいい機会かもしれないわ」

「夜会に出るとなれば、殿方のエスコートが不可欠って習ったわ!……消去法で、お父さまに頼むしかないのかしら」

「よく勉強しているわね、フルール。そのとおりよ。お姉ちゃんを着飾るのは私に任せていただくとして……」

 継母が、商売物のドレスを目利きする時よりも数倍厳しい目つきで、父の全身を検分する。

「水魔法の特訓で少しはお痩せになりましたけど、お姉ちゃんのエスコートを任せるには、まだ『華』が足りませんわね。特にその、自信のなさそうな猫背!」

「え、僕の話かい?」

 手を真っ黒に汚して教科書と睨み合っていた父が、ようやく顔を上げる。そして、継母のあまりに鋭い視線に、引きつった笑いを浮かべて肩をすぼめた。


「お父さまを鍛えるのなら、私に任せてくれない?」
「フルール。何か案があるのね?」

「こないだ粗大ゴミ(レオポルド)を捕まえるのに、蔓を伸ばしてみて思ったのよね。その、前に魔法で屋敷を蔓だらけにしちゃったこともあったじゃない?」

 それは私がブチ切れて、長女も当主も放棄して引きこもった『地獄の四日間』の話だろう。
 今では笑い話だが、あのとき、完全に放置された家族は蔓の檻に閉じ込められ、文字通り途方に暮れたという。

洋梨(ラ・フランス)の開発も落ち着いたし、今度は屋敷や領の警護のために緑魔法を応用できないかなと思って。不届き者をね、こう、逃がさないようにガシッと! 締め上げたりとか!」

「ひぇっ……!?」

「お父さま、実験台になってね!」



 今さら父に対して、憎しみや恨みなんてない。
 けれど、助けを求めるように見つめてくる父と、「またお姉ちゃんの役に立つんだ」と頬を紅潮させて意気込むフルールを天秤にかけ――。

 私は、そっと青ざめる父から視線を逸らした。