その日の晩、父への褒美に、普段よりも豪華な祝宴を用意した。
家族だけの小さなお祝いだというのに、継母は「せっかくだから」と私に流行のドレスを着せ、髪を香油で梳かして華やかに巻いてくれた。
家族全員が体裁を整えた装いで食卓を囲むのは、どこか夢を見ているような、不思議な光景だ。
最高級の牛肉を使ったワイン煮に、採れたての新鮮なサラダ。フルール曰く、領内で一番評判だというパン屋のバゲット。父の得意料理となった、透き通ったコンソメスープ。デザートには、継母の伝手で王都より取り寄せた、色とりどりの可愛らしいケーキ。
「お姉ちゃん、これも食べてみて! 私が育てて、摘んできたサラダだよ!」
「あら、デザートもたっぷりありますから、お腹は残しておいてね。お姉ちゃん、栗のケーキも好きだったでしょう?」
次々と私の皿に料理を取り分けてくる二人に、私は思わず苦笑を漏らした。
父は、私が一口スープを運ぶたびに、試験の結果を待つ子どものように顔を強張らせている。
執務室で書類を前に、ただ栄養補給として摂取するだけの時間が、今やこれほどまでに騒がしく、温かい。
あれほど傲慢だった彼らが、今や私の一挙手一投足に怯え、そして私の「言葉」一つで救われたような顔をする。
私は彼らを許したわけではない。
心の支えだった母の形見が戻るわけでもない。
けれど。
無様なまでの努力の痕跡を隠そうともしない、父の無骨に荒れた指先や、不慣れな事務作業でインクの染みた継母の指、土だらけになったフルールの爪先を見ていると。
――――復讐心とは別の、奇妙に冷めた「納得」が胸に落ちていくのを感じた。
これまで彼らが無能だったのは、私がすべてを一人で完璧にこなしすぎて、彼らの成長の機会を奪っていたからかもしれない。
……あるいは、私が彼らを信じることを、最初から諦めていただけだったのか。
立ち上る湯気の向こうで、フルールと継母が笑い合っている。父は黙々と目の前のご馳走を、一口一口噛みしめるように味わって、満面の笑みだ。
各々の仕事の進捗報告で盛り上がる食卓を眺めながら、私も手元にあるとろけるほど柔らかい肉を、そっと口に運んだ。
肉の旨みのせいか、それとも家族の明るい声のせいか。
鉄の仮面を被っていたはずの私の口元が、ほんの少しだけ緩むのを自覚した。
以前は想像もできなかった、喉を通る料理の温かさ。
――次は、私も我が領の名産のワインを飲んでみようかしら。
今の私なら、初めてのお酒も、少しだけ美味しく感じられるかもしれない。

