花びら

 「落ちてくる桜の花びらを五枚取れたら、願いが叶うんだって」


 そんな、彼女の言葉。

 ここは果てがないと感じてしまうほど、桜が咲き乱れている。

 俺は、知っている。
 こんなの迷信に過ぎない。
 何度も何度も桜に願った。

 手を伸ばす。
 俺の願いがこもった桜の花びらが手の中にある。
 ゆっくりと手を広げると、思いと共に風に飛ばされていく。

 一枚目。
 笑顔で、桜の下で駆け回っている彼女。
 綺麗。
 一枚の美しい絵画を見ているかのような、情景。

 二枚目。
 ゆっくりと、体を絡める。
 彼女の、柔らかい香りと優しさに包まれる。
 気持ちが良かった。
 もう一度、したかったなぁ。

 三枚目。
 俺と楽しそうに話す彼女。
 少し、顔色が悪く、心配だったのを覚えている。
 頭に直接、救急車の音が響く。

 四枚目。
 治療法のない難病だと聞かされて、悲しそうに微笑む彼女。
 こんな時にまで笑うなよ!
 こう言えたら良かったのに。
 
 五枚目。
 自分が1番苦しいだろうに、泣いてしまった俺を励ましながら亡くなった彼女。

 そんな優しい彼女が、この世からいなくなりませんようにって。
 こんな噂は迷信に過ぎない。
 もう一生彼女と喋ることも、笑い合うことも、顔を見ることさえ出来なくなってしまったのだから。
 まだ、死んだ頃のままの彼女の笑顔だけが、俺の中に眠っている。
 「一緒にいてくれて、ありがとう。好きだったよ。これからも、愛してる。」
 最後の一枚が風に飛ばされて、舞い上がった。