キス―――と言えば……
「そう言えばね、あたしマックスと言い合った後、啓の泊まってるホテルにも行ったの」
「What?」今度は心音が奇妙なものを見る目つきで顔を歪めた。
「うん、ちょっと色々と…」あたしは瑞野さんのSNSを見て心配になったことを話し聞かせた。
心音はメイクを落としても尚赤く熟れたような唇の口角を上げ
「あんたも女ね~。てかよく見つけられたわね、彼女のアカウントを」とからかうように笑った。二度目の”女”発言に顔を歪めながら
「何とでも言って。アカウントは……つてがあってそっち方面から探ってもらった」
「つて?」と心音が不思議そうに首を傾げる。
「味方か敵か未だはっきりしないけれど、”彼”のお陰で見つけられたから少なくともそのときはあたしの味方でいてくれたわ」
「はぁ、なるほど。昔のあんたと変わってない。マックスの浮気に目くじら立ててたときと同じ」
「一緒にしないでよ」あたしは泡立った湯の表面を再び軽く手で払うと心音はその湯を避けるように顔を逸らし尚も余裕顔で笑っている。
「そこで二村さんが差し向けたであろう警察が啓を陥れる為来たわ」
「What!?」心音は目を開いた。
「同じように瑞野さんのSNSを見た二村さんが逆上したのよ」
「Oh my god!はぁー、相当な執着ね。それとも愛?」
「愛だったらそんなことまでしないでしょ。あれは完全に執着よ」
厭味ったらしく言ってあたしは苦々しい表情を浮かべてシャンパンを一気飲み。美味しい筈のシャンパンが急に苦く感じられた。
正直―――あたしだって愛が何たるかなんてわかってないけれど。でもあたしだったら少なくとも好きな人を困らせることはしない。あの場でもし瑞野さんが警察に発見されたのなら事態は変わっていたのだ。それは瑞野さんにとって良い方向に行くことはないだろう。そんなことも想像しなかった二村さんの浅はかな行動に嫌気がさす。
「まぁ何とかうまく切り抜けたけど」流石にあの時はあたしもひやひやした。瑞野さんが咄嗟にクローゼットに隠れたから何とかなったものの。
「その様子じゃ今後のケートの様子が心配ね」心音は小さくため息。あら、心音が啓の心配を?
「それは大丈夫よ。手は打ってある」
「まぁあんたのことだからそれも想定済みだと思ったけど?」と心音はにやりと笑う。
そんなことを話し合っているといい加減のぼせてきた。二人とも湯の蒸気かそれともアルコールのせいか頬がほんの少し赤い。
お風呂を出てバスローブ一枚、髪も乾かさず心音はリビングのソファでわが物顔で勝手にビールを飲んでるし。
まぁね、いいんだけどね。心音サマだし。
いくら暖房を入れてるからと言ってもこの時季にその恰好は風邪をひいてしまうかもしれない。あたしは無理やり心音をパウダールームに引っ張っていき、髪を乾かした。勿論あたしも。
ついでにメイクもして
「どうする?せっかく東京きたわけだしまたどっか行く?」と聞くと、心音は顎に人差し指を置き上を向きながら「うーん」と考え込んだ。
「んー、こないだ来たときだいぶ回ったし」と心音はちょっと考えるように首を傾げ、赤い口紅を塗りながら
「あたし、久しぶりにユーリに会いたいわ」と言い出した。



