Fahrenheit -華氏- Ⅲ



「……ごめん、俺無神経なこと言った」


葵さんがしゅんと頭を下げる。


「いえ、私も感情的になってしまい申し訳ございません」


よく考えたら何故あたしは葵さんに向かって本気で怒ったのだろう。そんな関係じゃないのに。


葵さんは彼なりにあたしを気遣ってくれただけなのだ。


いつまでも煮え切らないあたしに振り回されて、葵さんだって思う所があるだろうに。


「ごめんなさい」


あたしはもう一度謝った。


葵さんはへらっと強引に笑顔を作ると


「ねね、この髪似合ってる?」


「ええ、おかしくはないですよ」


「これで少しは瑠華ちゃんの隣を歩いてても変じゃないよね~」


「今まで私は意識したことがありませんが。むしろ目立つ髪色だから見つけるのが楽でした」


「ひっでー」と葵さんはここになってようやく本来の元気を取り戻して笑った。


「ねね、ところでさー、カウントダウン二人でしない?」と葵さんの提案に


「は?」とあたしは顔を思わず歪めた。また急に話が変わるわね。まぁカウントダウンする相手もいないのは事実だが。


「私が何故あなたと?」


「やー、俺もカウントダウンする女の子居なくてさ~、それに瑠華ちゃんにクリスマス断られてちょっと悲しかったからさー」


「断ったって、あれは半分あなたの提案じゃないですか」


「まぁそうだけど」


「だからって何故私を…?」との問いかけに


「だって俺ら結構仲いいじゃん?」と葵さんはにこにこ。


「仲がいい?」


「食事したり~、お茶飲んだり、水族館にも行ったジャン?」葵さんは指折り数える。


まぁ…水族館はそれなりに楽しかった。


「考えておきます」


とは言ったものの、いい断り方がすぐに思いつかなっただけで、葵さんとカウントダウンする気はない。


パーキングの料金を払って車を発車させようとすると電話が鳴った。


葵さんはまだ立ち去っていない。


着信:心音


となっていてあたしは目をまばたいた。