Fahrenheit -華氏- Ⅲ


あたしは八王子にある葵さんのアパートの近くのコインパーキングに行ってLFAを取ってくる必要がある。その先はタクシーで瑞野さんを横浜の団地まで送り届けてもらうつもりで二人でタクシーに乗り込んだ。


「柏木補佐、昨日はご迷惑をお掛けしてごめんなさい」


タクシーに乗り込みシートベルトを締めると瑞野さんは謝ってきた。


「私は何も。謝罪でしたら部長に仰ってください」


「……はい」瑞野さんが項垂れる。


言い方キツかったかな、と思ったけれど今気を遣える程の気力がない。


昨日降った雪はあっという間に溶けてしまったようで雨が降った晩の残りのように路上に水痕だけ残していた。


交通機関も麻痺しているわけでもなさそうで、道行く人々は何事もなかったかのように平然としていた。


向こう(NY)では今日が本番。でも日本で重要視されるのは24日みたいで街中を飾るクリスマスの飾り付けが妙に冷めて見えたのは気のせいだろうか。


葵さんの指定したコインパーキングにあたしのLFAはきっちり停められていた。念のため車体を確認したけれど事故をした跡もなければ妙な傷跡すらない。無事を確認したのち葵さんに電話をしようと思ったけれどやめた。朝起きてから時間が経っているとは言えまだ8時だ。夜型の葵さんを起こすのは悪い。それに昨日は散々付き合ってもらったから尚更だ。


お礼のLINEだけ入れて車に乗り込んだときだった。


TRRRRR……


電話が鳴って表示を見ると


着信:葵さん


になっていた。


『瑠華ちゃん?おはよ~』昨日あれだけ振り回したって言うのに葵さんはいつも通り元気のある声で挨拶。


「おはようございます、昨夜はありがとうございました」


『ね、今少しだけ時間いい?今からそっち行くから』と聞かれ、


「はぁ」と答えた。


何だろう。昨日の話の続きかな。やっぱりあたしの言い訳に納得いってなかったとか?


と色々考えているうちに若い…男の子があたしの車のパワーウィンドウをコンコンと叩いた。


それが葵さんだと分かるのに少しの時間だけ有した。


何故なら葵さんのトレードマークになっていた綿あめみたいなピンクの髪は黒色になっていたから。こうやって見ると随分印象が変わる。


好青年とは言わないまでも元々整った顔立ちだ。中身を知っているから真面目さが欠如しているように見えたが似合っている。